出版社内容情報
1936年、旧弊な日本を逃れ、父が綿花交易を営む仏領インドシナで地理学を学ぶ滝口鞠は、外務書記生の植田や、暗躍する商社マンの紺野、憲兵の前島らとの関わりにより、非情なる植民地の現実に触れていく。世界大戦の時代を生きる、ひとりの日本女性の運命は?
内容説明
1936年、父子家庭で育った滝口鞠は、名門女子専門学校を不合格になったのを機に、父が綿花貿易を営む仏領インドシナのハノイへと渡る。猛勉強の末、外務書記生・植田勇吉の助力もあってハノイ大学への入学を果たした鞠は、“新天地への冒険”という夢を胸に地理学を学ぶことに。一方、父から見合いを勧められた南亜洋行の商社マン・紺野永介は、どこか不穏な雰囲気を纏い、仏印社会で暗躍していた。そんな矢先、植田が国境地域で敵兵に拉致されたとの報が届く。日本軍の仏印進駐が迫るなか、植民地主義の非情な現実が、鞠を翻弄していく―。第13回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
著者等紹介
葉山博子[ハヤマヒロコ]
1988年石川県金沢市生まれ。2023年、本書『時の睡蓮を摘みに』で第13回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞して作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
184
第13回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作ということで読みました。設定やスケール感は好いですが、以前同賞を受賞した「同志少女よ、敵を撃て 」と比べると、どうしても小ぶり感が否めません。またミステリとしても弱いと思います。 https://www.hayakawabooks.com/n/n2c1e0eb317722024/04/11
えみ
57
善も悪もそこには存在することはなく、好きも嫌いも自分の感情が尊重されることはない。時代に翻弄され、人を信じることでさえ命がけ。好意さえ裏があると疑わなければならない「裏切り」の世の中に自分らしく生きたいと願う女性・鞠の、玩弄され続け詐取され続ける人生。成功したように見える人々でさえ、心を殺され誰かを殺すために生かされている。正体不明な何かが蠢き、誰かの手のひらで踊らされる人々が諦めと適応の世界に生きた運命を見る。自分らしさを捨て去り生きることを選ぶことは仕方ない。…だけど許せるかは別問題だ。人も自分も。2024/07/09
クリママ
43
戦前から戦中にかけての仏領インドシナ、ハノイ。日本の女学校になじめず、父親の働くハノイへは渡り、地理を学ぶために大学へ入学する。仏領のハノイはエキゾチックで美しく、その描写は素敵だ。だが、日中戦争中のヒロインのノーテンキさも、彼女の周りの男性のいかがわしさも、しっくりこず、人物にもう少し筆を尽くしてもらいたかった。いや、彼らはスパイなのか、その言葉は本心なのか、それこそがミステリーなのかもしれない。日本軍が進駐し、ハノイも変わっていく。装画のように美しく儚いハノイが印象深く、巻末の参考文献の多さに驚いた。2024/02/24
ヒデミン@もも
41
葉山博子さん、初読み。 アガサ・クリスティー賞大賞受賞作と帯にあったのと、このタイトルと睡蓮の花の絵が、この時期に読めと呼んでるのかと手に取った。が、難しかった。こんな混沌した時代に生きた人々を想像して読むのはムリムリ。史実の説明が多いうえに、主人公鞠を取り囲む人が多いのだから。もっともっとドラマティックに描いて欲しかった。2024/07/05
rosetta
38
★★★★☆13回アガクリ賞。凄く面白かった、新人とは思えない達者な筆力で仏領インドネシアの戦前戦中を語る。太平洋戦争前の1936年から終戦の1945年までの僅かな期間だがなんと濃密な時間が過ぎたのだろう。大手商社勤務の父子家庭で育った主人公の鞠は女子専門学校を不合格になり父のいる仏印に渡り当地の大学に入学する。外交書記や軍事密偵の若者らと袖すり合い大学で親友も出来るが、戦争が深刻化するに従い憲兵と関係が繋がる。あまりに余韻の残りすぎるラストにはもっと読みたいという欲求不満も残るが今後に期待したい作家の誕生2024/02/16