出版社内容情報
作家ルーシー・バートンの前夫ウィリアムは、71歳にして人生の荒波に翻弄されている。彼の亡母ゆかりの土地を訪ねる旅に同行することになったルーシーは、結婚生活を振り返りながら、これまでの人生に思いをめぐらせる。『私の名前はルーシー・バートン』姉妹篇
内容説明
ルーシー・バートンと元夫のウィリアムは、離婚してからも穏やかな付き合いを続けていた。ある日、亡き母の秘密を知って動揺するウィリアムに助けを求められ、ふたりは短い旅に出る。家族という、時に厄介で時にいとおしい存在は何なのか。結婚とは、人を知るとは何なのか。静かな感慨に満ちたブッカー賞最終候補作。
著者等紹介
小川高義[オガワタカヨシ]
1956年生、東京大学大学院修士課程修了、英米文学翻訳家、東京工業大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kaoru
86
最初の夫ウィリアムとの日々を回想するルーシー・バートン。極貧の幼少期を送った彼女はウィリアムとの結婚で豊かな生活を送り作家として立つ。彼女は三度目の離婚をしたウィリアムに付き合って故郷に住む彼の義姉ロイスに会い、義母キャサリンの意外な出自を知らされる。老齢に達した彼らに深い影響を及ぼした戦争。ドイツ系の父を持つウィリアムはダッハウのガス室や焼却棟の夢を見るがルーシーの父も戦争のPTSDに悩んだ。様々な人の過去がつながって今の自分がある。そして人間はたとえ近しい関係であってもお互いを完全に理解はできない。→2024/02/27
たま
73
2022年のブッカー賞最終候補作だったとか。面白くて一気に読んだ。ルーシーが最初の夫ウィリアムを語る。娘が二人いるが離婚、会うと「ああ、ウィリアム、あなたってこうだったわね」とか「ああ、ちょっと変わったのね」とか思う、その機微がさらっと書かれしっかり伝わって来る。2人で義母の過去を調べに旅行に出かけ、それまで見えていなかった義母の過去、義母と夫そして自分との関係性も見えてくる。人はこうして身近な人との関係で作られる面があるのは確か。自分自身を顧みて思うところが多く、短い小説だが豊かで深い読書だった。2024/03/09
なゆ
71
シリーズ第3弾。元夫ウィリアムとは離婚後も友人のような仲。ウィリアムの亡き母キャサリンの秘密にショックを受けたウィリアムとルーツ探しの旅に出る。道中ルーシーの胸中にいろんな「ああ、ウィリアム!」が訪れ、二人の、家族の、これまでのいろいろな事も思い返される。ウィリアムは意外にどうしようもない人で、ルーシーだって結構自分勝手なとこもあり、お互い「ああ、」な旅。どうしようもないけど何とか折り合いつけて、2人の腐れ縁?はまだまだ続きそう。人生ってそんなもんかも。でも親たちの貧しさからよくぞここまで、上々の人生だ。2024/01/20
天の川
61
作家ルーシーが主人公の3作目。2度目の妻に逃げられた元夫ウィリアムに請われ、父親違いの姉を探す旅に同行したルーシー。旅をしながら回想するのは、元夫との生活、娘たちのこと、死別したばかりの夫のこと、自らの子ども時代。「…ということ。」で終わる話の数々。成育歴が自らの人格形成に与えた影響を分析し、遠い過去の失敗に気づき反省し、周りの人々を辛辣に批評するが、「他の人間が何をどう思ったかなんてわからない」と結論づける。だから「ということ。」なのか。本作で1・2作目が自分の中で結びついた。ストラウトはいつも面白い。2024/01/15
星落秋風五丈原
61
感嘆符をつけて相手の名前を呼ぶ時といえば、例えば感動した時、そして正反対に呆れた時などが考えられる。『私の名前はルーシー・バートン』『何があってもおかしくない』に登場した作家ルーシー・バートンは、ニューヨークが好きである。にもかかわらず、前夫ウィリアムの頼みを聞いて、彼の亡母ゆかりの土地を訪ねる旅に同行することになった。その土地ときたら、スティーヴン・キングの小説に出てきそうな田舎なのだ。こうなった理由としては、タイトル『ああ、ウィリアム!』と言いたくなるような、彼の突拍子のなさと、頼りなさによるものだ。2023/12/21