出版社内容情報
テック企業が注意関心を貨幣のように取引する現代社会への最大の抵抗、それは「何もしないこと」だ。スタンフォードで教える現代アーティストが、哲学者、芸術家、活動家、そして野鳥たちの世界を自由に渡り歩く、「抵抗する人々」のためのフィールド・ガイド
目次
はじめに―有用の世界を生きのびる
第1章 「何もない」ということ
第2章 逃げ切り不可能
第3章 拒絶の構造
第4章 注意を向ける練習
第5章 ストレンジャーの生態学
第6章 思考の基盤を修復する
おわりに―マニフェスト・ディスマントリング:明白な解体
著者等紹介
オデル,ジェニー[オデル,ジェニー] [Odell,Jenny]
アーティスト・作家。スタンフォード大学講師。バードウォッチング、スクリーンショットの収集、おかしな電子商取引の解析など「観察」をともなう作品を多く発表し、フェイスブック、インターネット・アーカイブ、サンフランシスコ都市計画局、レコロジーSF(ゴミ収集業者)など多様な団体で招聘アーティストとなった。アメリカ国内のほか、パリ、中国、ドバイなどでも展示が行われている。オークランド在住
竹内要江[タケウチトシエ]
翻訳家。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Apple
30
自分にとっては,いままでと違う考え方をもつきっかけになってくれそうな本でありました。主旨としては,確かな基盤(直接の人間関係や,自然)にもとづいて生活を送りましょう,みたいなことかなと感じました。『今日,私たちは文化の砂漠化にも脅かされており,生態学の基本から学ぶべきことがたくさんある。注意経済にがんじがらめにされている共同体は工場式の農場のようで,そこではたかいに手を伸ばしあって水平に広がる注意と支援のネットワークをつくる時間などない。それどころか非生産的な生命体が姿を消していることに気づく余裕もない』2023/11/24
冬佳彰
14
想定していた内容とは違い、若干、散漫とした感じを受けた。著者も本書のどこかでエッセイであると書いていたが、直線的な主張を展開するというよりも日々の雑観や歴史、注意経済を構成するサービス(サービスか?)に関する思いを多面的、重層的に書いた本だと感じた。本書の「何もしない」は、良くある自己啓発本のように、「一時的にネット断ちして、元の場所に戻ったときに、すっきりして、生産性が上がっている、私」などという浅いものではない。それゆえに、ある部分難解で、単純な解を示しているものではない。そこは読者を選ぶのだろうな。2021/12/08
Sakie
11
SNSのようなものをattention economyと定義し、それらに対して意識的かつ積極的に抵抗する行為として「何もしない」と題している。結果としては自分の時間を取り戻し、オフラインでありローカルであり自然への回帰などに結論する。そこまでの哲学やアートを引用したアプローチが、私には迂遠ではあった。ただ、「何もしない」ことは責任や義務の回避ではありえないという指摘、「注意」を向ける対象を選別するトレーニング、"外側に可能性をつくりだす"重要性などは興味深かった。『しないほうがよろしいのです』。2024/04/06
タイコウチ
9
駆け込みで積読本の年末整理。原著の副題には「Resisting the Attention Economy」とあるが、「注意経済」とは、私たちの注意が向けられることで経済価値が生み出される現代のネット社会のしくみのことで、コンテクストの崩壊した社会で、いかにして感受性の搾取に抵抗し、自らを(そして社会を)組み直していけるかという話。自分のおかれた自然環境と地域社会に注意を振り向け、コンテクストを意識することが説かれる。著者の実践例は、散歩とバード・ウォッチング。思索の幅が広すぎて1回読んだだけでは未消化。2021/12/30
endormeuse
9
本書における「何もしない」とは「生産性神話とアテンション・エコノミーへの参与を拒否する」という意味のものであって、何もしないことで生じる余白から逆説的に真の豊かさを得るということである。まかり間違っても孤独に一日中寝転がってYouTubeでASMR動画を視聴したり大麻で白痴的にチルしたりソシャゲでアイテム掘り周回に耽溺したりといった明白に非生産的な「無為」が言祝がれているわけではない。コンヴィヴィアルな暮らしのススメ。折り目正しい主張であるが、しかしその微温性が不満でもあるのが正直なところである。2021/10/15