出版社内容情報
パリにある引退者が暮らす施設「ティエル=タン」。静寂の中、記憶をたゆたいつつ人生の最期を待つ一人の老人がいた――ジェイムズ・ジョイスとの友情など実際のエピソードを交えながら、ノーベル賞作家サミュエル・ベケット最期の日々を精緻に描いた小説。
内容説明
1989年、パリ14区に実在する老人養護施設“ティエル=タン”。そこに鋭い目つきの長身の老人がいた―。ジェイムズ・ジョイスとの友情など、事実を基にしたエピソードをちりばめて描かれる、ノーベル文学賞作家の人生最期の日々。記憶をたゆたいながら、諧謔と憂愁に溢れた声が響く。サミュエル・ベケットの強烈な個性を再現しながらも、死を待つ人間の普遍的な姿を浮き彫りにした著者の鮮烈なデビュー作。ゴンクール賞最優秀新人賞受賞。
著者等紹介
ベスリー,マイリス[ベスリー,マイリス] [Besserie,Maylis]
1982年フランス、ボルドー生まれ。ラジオドキュメンタリーのプロデューサーとして活躍後、2020年2月に『ベケット氏の最期の時間』がガリマール社より刊行されデビュー。ゴンクール賞最優秀新人賞を受賞した
堀切克洋[ホリキリカツヒロ]
演劇批評家・翻訳家・俳人。1983年福島県生、一橋大学社会学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在パリ在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
83
とっくに過ぎている延長済みの貸し出し期間に追われ、なんとか読み終える。戯曲家ベケットの最期の日々、老人ホームでの生活を描く小説。ベケット作品や半生に詳しければなお楽しめたのだろう。唯一の映画脚本の映画「フィルム」のシーンもある。映画は未見。どこかで見たいものだが。独白や過去のエピソードの数々と、彼を見守る看護師などの記述がある。悟りきった部分と後悔の入り混じった寂寥感が漂う。「昔はあれほど犬のような孤独に憧れていたというのに。狼のような孤独に。」2021/10/06
アキ
81
ノーベル賞作家サミュエル・ベケットが1989年12月22日83歳で亡くなるまで、同年7月25日からの高齢者養護施設で過ごした最期の日々。著者のマイリス・ベスリーはフランスのラジオドキュメンタリーのプロデューサーだった。本書がデビュー作でゴングール賞新人賞受賞。パリでジェイムズ・ジョイスと過ごし、1938年にパリの通りで刺された事件、先に逝った妻シュザンヌ、戯曲ゴドーを待ちながらのことなど、終末に向かいながら取り留めもなく思い出している物語。未だ作品を読んだ事のない作家だが、有名な戯曲から読んで見ようかな。2021/08/08
ケイトKATE
31
20世紀を代表する劇作家で小説家サミュエル・ベケットの亡くなるまでの半年を描いた“小説”。個人的に印象に残ったのが、物語が7月から始まっているにもかかわらず、秋のような涼しさが全編に漂っているのと、老いを受け入れ淡々と人生の終わりを待っているベケットの姿である。老いについて、私を含めて誰もが嘆き、嫌悪し、否定してしまいがちだが、ベケットのように老いを受け入れることこそ、人生の最期をより良く迎えるために大事なことでないかと感じた。2021/07/24
Bartleby
13
妻のシュザンヌが亡くなった1989年7月17日のおよそ1週間後から本作は始まる。原題のLe Tiers temps(第3の時)というのは、障碍を持った人のために試験時間を延長できる制度のこと。これは良いタイトル。人生の“おまけ”ということか。いわばこの「虚実の皮膜」を流れる時間のなかで、ベケットは最晩年を生きる。ベケットの声だけでなく、いろんな声とざわめきに満ちた小説。看護師の看護記録、医師の呼び声、心理カウンセラーの報告、サッカーの実況中継、隣室の老人の叫び、ジョイスとその娘の声。しだいにベケットの声…2023/04/30
すーぱーじゅげむ
10
老人施設に入った作家サミュエル・ベケット(ノーベル賞)の一人称で語られる最期の日々、若い作家によるフィクションです。ベケットのひととなり・作品は知らないのですが、とても素敵でした。彼の頭の中が豊かで、ユーモアに満ちていて、人生への洞察は深く、情けなくも人間らしく、なんか可愛い、と思いました。介護職員には全然それが伝わっていないのもお約束です。老人ってやっぱり、しょうもないことやっていても、天才なのかもしれない。2023/05/11