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出版社内容情報
引退を決心した71歳の精神科医のもとにやってきた最後の新患は、若くして希死念慮にとらわれた女性だった。精神科医は彼女の面談をとおして、他者とのかかわりを避けてきた自らの人生に向き合う。デンマーク人精神科医が描く、老いと死を静かに見つめる小説。
内容説明
一九四八年、フランス。五ヵ月後の七十二歳の誕生日で引退することを決めた精神科医のもとに、最後の新患がやってくる。希死念慮や自傷の衝動に苦しむ彼女の名前は、アガッツ。カウンセリングを重ね、彼女に問いかけるなかで、精神科医は、患者の苦しみから目をそらし他者とのかかわりを避けてきたみずからの人生と、近づいてくる老いや死に対する恐怖を見つめなおす。デンマーク人臨床心理士による、孤独な魂の交流を描いた小説。
著者等紹介
ボーマン,アネ・カトリーネ[ボーマン,アネカトリーネ] [Bomann,Anne Cathrine]
コペンハーゲン出身の作家・臨床心理士。1999年、15歳で第一詩集Hjemlos、2004年に第二詩集Faldを発表。コペンハーゲン大学で心理学を専攻。卒業後、臨床心理士として働く。2017年に発表した『余生と厭世』が小説家としてのデビュー作である。パートナーと犬とともに、コペンハーゲン在住。元、卓球のデンマーク代表選手でもある
木村由利子[キムラユリコ]
大阪外国語大学デンマーク語学科卒、デンマーク語翻訳家。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
74
ラスト近くまで人と深く係わりをもつことがない。果たして、人間嫌いで精神科医が務まるのだろうか、患者に親身に向き合いカウンセリングが施せるものだろうか。引退までのセッションをカウントしながら消化するだけの日々。日課を無難に終えても、その余生はこのままでは甚だしく疑問だ。味気なくもそんな人も世の中には存在するだろうが。案の定、ある患者からは自分の内面を見透かされてしまう。そして自傷行為に走るアガサとの出会いで自分の変化、自分の心の揺らぎに驚きながらラストを迎える。結末は容易に想像できるが、創作の面白さはある。2023/06/26
夏
38
デンマーク人の臨床心理士による、1948年のフランスを舞台にした、70代の精神科医の物語。原題の「Agathe」は、フランス語風に言えばアガッツであり、彼の最後の新患の名前である。彼はアガッツとの対話を通して、自分自身を見つめ直す。アガッツが来る前、彼は孤独だった。だがアガッツと交流する中で、彼の中で何かが芽生え、少しづつ他者との交流を持つようになる。表紙に惹かれて読み始めたのだが、中身も素晴らしく良かった。北欧の作品はいくつか読んだことがあるけれど、デンマーク文学は多分初めて。本当に良かったので、推薦。2024/02/11
にゃおんある
37
不幸せな人を幸せにに導く人が不幸せだった精神科医。とても精神科医という職業が気になっていて本を選びました。魔法の言葉って存在するのか、はたまたもっとシビアな世界なのか。不幸せの原因とはなにか、そこから解放されるとしたら、どのような例が挙げられるのだろう。僕は人を幸せに導く言葉があるとしたら、けっして前向きな言葉だけではないと思うのです。音楽だって明るい曲が人を鼓舞するのではなく、悲しいときには哀れな曲に元気づけられることもあるのです。人から与えられたものではなく、……2020/10/13
あさうみ
31
短くまとまっていて読みやすい。仕事に見切りをつけ、孤独な人生をただ時を流れるように過ごす精神科医。リタイアを決めた今に、心に穴と傷を抱える患者に出会い、諦めから希望へ自分の気持ちが拓かれていくのが心地よい。周りには思っている以上にかけがえのない人達がいる。仕事に疲れた今、まさに丁度良い本でした。2020/06/28
そふぃあ
18
アガッツが来たのが別のタイミングだったら、老医者は何も変わらなかったかもしれない。あのときに彼女が現われたからこそ、彼は自らの孤独や患者たちと真に向き合うことができた。たとえ嫌気の差す仕事でも、終わる間際になって初めて、かけがえのないものに見えてくるように思う。同じことが人生全体に言える。私ももうすぐ死ぬという時になったら、色んなものを受け入れられるかもしれない。そうであればいいと思う。リンゴのケーキ食べてみたい。 読みやすかった。訳者あとがきはちょっと微妙。2020/11/18