出版社内容情報
【第一回ハヤカワSFコンテスト受賞作】雨野透の人格が転写され宇宙を旅する惑星探査機。彼の中の、地球に残した元恋人みずはと過ごした記憶が、宇宙の危機を招来する……壮大な思弁的宇宙SF
内容説明
土星探査というミッションを終えた俺は、やがて太陽系を後にした―予期せぬ事故に対処するため無人探査機のAIに転写された雨野透の人格は、目的のない旅路に倦み、自らの機体改造と情報知性体の育成で暇を潰していた。夢とも記憶ともつかぬ透の意識に立ち現われるのは、地球に残してきた恋人みずはの姿だった。法事で帰省する透を責めるみずは、就活の失敗を正当化しようとするみずは、リバウンドを繰り返すみずは、そしてバイト先で憑かれたようにパンの耳を貪るみずは…あまりにも無益であまりにも切実な絶対零度の回想とともに悠久の銀河を彷徨う透が、みずはから逃れるために取った選択とは?第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。
著者等紹介
六冬和生[ムトウカズキ]
1970年5月、長野県岡谷市生まれ。信州大学経済学部卒。海外SFを長年愛読し、会社勤めのかたわら小説を執筆。『みずは無間』が第1回ハヤカワSFコンテスト受賞作となり、デビューを飾る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃん
91
宇宙空間を突き進む探査機。搭載されているのは、AIに転写された人格、雨宮透。何度も再生される記憶は、過食症の恋人、みずはとの妙に生々しいやりとりだった。それと交互に繰り返される宇宙空間で遭遇するもの達との、丁々発止の「激闘」のパートは横文字専門用語のオンパレードで、あまり理解できてないが、勢いで読んでしまった。意識がある限り、人は飢餓に囚われ続ける存在なのだろうか。透のオリジナルもみずはも、遥か昔にいなくなってしまったというのに…「透、ひとくちちょうだい」繰り返されるこのセリフが恐ろしくも哀しい。2014/10/22
藤月はな(灯れ松明の火)
54
地球からいなくなっても後腐れがなく、物事を客観的に見られるという理由でAIにプログラミングされた透の人格。物事を突き放してみる彼の人格は宇宙探索の暇潰しとして飢餓をプログラミングした知能生物を作り出した。その飢餓の元となったのは透の彼女で実ではなく、名や立ち位置ばかりを「ひとくちちょうだい?」と欲しがってばかりだった依存系のみずはという少女からだった。そんな彼女の思い出から物体、時間、距離的に遠ざかっても脳にインプットされたものには逃げられない。そして細部を書き換えても問題がないとしたならば尚更だ。2014/03/14
くろり - しろくろりちよ
36
第一回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作品。孤独に宇宙を漂うAIとなった人格と、それ以前に地球に生きた人格が交互に語られ、記憶を干渉し合う。退屈に飽かせて新たな生命を作り、自己をコピーしそれでも続く無限の時間。いくら与えられても満足することなくもうひとくちとせがむ彼女を救うこともなければ記憶を改竄することも出来ない後悔の奔流。繰り返し繰り返されるうち意識の不思議な酩酊を味わう。SF用語が多用され、最後まで慣れることができない難解さだったが、世界感だけは十分に味わうことができた。2014/01/05
更紗姫
34
AI技術は<地球上では世論がちょっとあれなんで・・・>探査機に搭載した挙句がこれかいな。・・・ 呆れるほど面白かった!恋人への屈託を抱えたまま数万年、その鬱屈をあまねく宇宙の果てまで拡げちゃった「天野透」(名前も示唆的)。コンビニの会話と130億光年先の深宇宙、ダイナミックレンジが快感。みずはの執着というより透の拘泥だろうか?この二人、「共依存」なんだと思う。語り口がとてもスムーズ、<つぎ足しつぎ足しで使う秘伝のタレ理論>とか、わかり易い例えだけれども、米軍の教官はタレ言わないよね。翻訳はどうしたんだろ?2015/04/29
akira
31
気になっていた一冊。秀作だった。面白さのベクトルは展開やストーリーではなく概念や恐怖感。ある種SF展開だから読めたかもしれないが、設定が現代で日常だったとしたら自分は耐えられないかも。何処かで聞いたことのあるような台詞。見たくない何かに取り憑かれるような恐怖感。こういう不穏な感情はどうも読まされてしまう。最後まで残る自分とみずはに関する謎がある種の虜にされたか。「お願い、嫌いにならないで」2017/04/01