内容説明
国王ヘンリー八世とキャサリン王妃との離婚は成立した。王の愛人アン・ブーリンは正式に王妃となることが決まり、戴冠式が近づいてくる。そのころ、確固とした信念を持つ非情な大法官トマス・モアは、異教徒の逮捕と処刑を進めていた。宮廷で着々と地位を築くトマス・クロムウェルは、市民の流血を最低限に抑えられるよう奔走するが…政治、信仰、個人。なにがいちばん大切なのだろうか?30を超える有力メディアで年度ベストに選出。激動の16世紀イギリスで生きる一人の男の明暗を、大胆かつ柔らかな筆致で描きだした歴史文芸大作。
著者等紹介
マンテル,ヒラリー[マンテル,ヒラリー][Mantel,Hilary]
1952年にイギリスのグロソップで生まれる。ロンドン大学とシェフィールド大学で法律を学んだのち、ソーシャルワーカーとして働きはじめる。ボツワナやサウジアラビアでの滞在を経て1986年に帰国し、歴史小説から随筆まで幅広い分野の作品を発表。2006年にはその功績により大英帝国勲章を授与された。2009年に発表された12番目の著作にあたる『ウルフ・ホール』は、全世界から高い評価を受け、ブッカー賞および全米批評家協会賞、歴史小説を対象とするウォルター・スコット賞を受賞したほか、コスタ賞およびオレンジ賞の最終候補となった
宇佐川晶子[ウサガワアキコ]
立教大学英米文学科卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
138
『ブッカー賞受賞作』語りの巧み。クロムウェルを焦点に、イギリス王室の権力争いや宗教改革に絡め、カール大帝やクレメンス教皇、フランソワ1世、メディチ家、そしてヘンリー八世とその女達を描く。クロムウェルの視点から、もしくはクロムウェルをも含んだ少し離れた視点から、様々な人物と時代を見る。チューダー家とヨーク家、ロンドン塔、アジャンクールの戦い、嫁を介した国同士の関係。そして最後の数行の素っ気なさと場面転換。権力を持つものは邪魔者を排除する。排除した者からいつか跳ね返ってくる摂理。次の作品に話は続く。2018/04/11
ケイ
115
有名な『ユートピア』(未読だが)の著者であるトマス・モアはなぜ処刑台に向かわねばなからなかったのか。敬虔なローマンカトリック教徒であったからか、王の離婚を認めなかったからか。議会が神より上であるはずがない。ごもっとも。しかし、彼は新教の信者を拷問し、残酷な処刑を行った人物。大法官であり、Cardinalではなかった彼は、その意味で容赦がなかったのか? クロムウェルは、ホルバインの描いた絵と違うようにヒラリーは描いたかと思ったが、彼の目は何も見逃していなかった。呪いを口にしないだけで、恐ろしいのだ、やはり。2021/06/22
ケイ
113
第三部を原書で読むために再読。流れは頭に入っているからか、クロムウェルの心の機微が始終気にかかった。クロムウェルが仕えていたウルジーの失脚から始まり、次の大法官トマス・モアの退場で『ウルフホール』は終了。しかし、そこが次の始まりとなる。モアとの最後のやり取りが、本当に恐れるべきは誰なのかという問いへと導く。しかし、モアですら、語るにおちたのではないか。作者ヒラリーの、アンなんて所詮真ん中に据えるものではないという気合いも感じる。深読み?どうかしら。2021/05/03
ケイ
111
クライマックスではアン・ブーリンやヘンリーの影が薄くなり、クロムウェル対トマス・モアの構図。現世のことより、神に背く事への根源的な畏れが行動を決めさせる。ここでも見られる死者たちの存在。クロムウェルが王の右腕になったと心の奥で喝采している時に、諫めにくるウルジーの亡霊。第二部の主役はアン、第三部にはクロムウェルがモアの後をどう追うか描かれる。2021/10/31
藤月はな(灯れ松明の火)
100
家族だけじゃなくてアン・ブーリーンやヘンリー8世からお払い箱される人々、職を失っても食べていかなければならない母親にも手を差し伸べようとするクロムウェルの好感度はますます、鰻上り。一方でトマス・モアはダダ下がり。だけど、母を亡くし、父から遠ざけられたメアリー王女が本音を言わないとグレゴリーが漏らす場面は、彼女の末路と相俟って遣る瀬無くなる。後、アンと結婚できると主張していたハリー・パーシーは本当に莫迦な男。言わなきゃ、これからの結婚生活が妻からの刺々しい沈黙と視線で味気ないものにならずに済んだものを。2017/10/22
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