内容説明
ぐれたい。悪いことを片っ端からやりたい。毎日がだるくて、つまんなくて、うんざりなんだもん。マチルダの姉は一年前に死んだ。線路に突き落とされて、列車に轢かれたのだ。それからずっと、両親はふさぎこんでいるだけで、家のなかは重苦しい空気で満ちている。そういう日々に苛立つマチルダは、決意した。姉を死に追いやった犯人を探し出して、両親の目を覚まそう。気が強く辛辣で繊細な少女マチルダの旅はどこへ向かうのか。そしてその旅が終わったとき、どんな風景が目の前に広がっているのか―。話題の若手劇作家で詩人の著者が鮮烈な筆致で描きだす、思春期の切ない冒険譚。2010ペンUSA文学賞受賞。
著者等紹介
ロダート,ヴィクター[ロダート,ヴィクター][Lodato,Victor]
作家・脚本家・詩人。ワイスバーガー賞を受賞した戯曲Motherhouseなどによりアメリカ演劇界で注目される。2009年に刊行した初の小説である『マチルダの小さな宇宙』は、「パブリッシャーズ・ウィークリー」をはじめ有名紙誌で絶賛された。ニューヨークおよびアリゾナ州ツーソン在住
駒月雅子[コマツキマサコ]
1962年生、慶應義塾大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
9
「ぐれたい。悪いことを片っ端からやりたい」とつぶやくマチルダ。姉を事故で失った矢先9.11が起こり、にわかにテロへの恐怖に苛まれた彼女は友達をシェルター作りに誘う。他人―特に両親―に対して感情をうまく表現できない彼女のぶきっちょさや、思い込みだけで行動する無防備さ、当然その後に待ちかまえている騒動など、どこかで少しずつ体験した覚えがあるそれらに、ふふふ、と笑って読者もいるかもしれない。そして、自分がもう、それらを持とうと思っても持てないことに、ちょっぴり羨ましさを感じることもあるのではないか。 2013/11/25
猫のゆり
6
正直あまり期待しないで読み始めたんだけど、当たりでした。現代版ライ麦畑、とか言われる小説にいままで結構がっかりさせられてきたから。でもこれは違った。同じように閉塞的な状況に置かれているのに、マチルダには行動力があり、現実に立ち向かっていく強い意志がある。ユーモアと独自の言葉でやり過ごす賢さもある。自分を取り巻く現実を、新鮮な感じ方と言葉で変えていく。小さな宇宙、という邦題も秀逸だと思った。2010/10/29
soran
4
若い、暴力的な死は酷く、周囲に深い傷を残す。そんな「姉の死」を、思春期のとば口に差し掛かった生意気盛りの妹にずっと視点を据えて描く。語り手自身の苦渋。両親の苦しみ。両親は、自分たちの悲しみと向きあうだけで精一杯で、妹娘に手を差し伸べる余裕はない。徐々に明かされる姉の死の真相が薬味を添えて、家族について、友情について、青い性について、この時期特有の悩みが鮮烈に描かれる。しかも背景には9.11が。「死」について、嫌でも考えさせてくれる作品。2011/01/26
にしき よう
4
読み終わってもなお心がざわざわしてまとまらないのだけれど、一人称小説なので描かれていないが姉の死によってマチルダの世界は自分が思っている以上に傷つき、他人の侵入を許さない程硬い殻で覆われてしまっていたのだと思う。姉の死に正面から向き合い一歩踏み出す(実際に街から出る)ことで、境界がゆるゆるとほどけていくところが何とも言えない。この物語を私の中に落とし込んでいくには、まだ時間がかかりそう…。2010/12/20
りつこ
4
頭も良くて抜群の行動力を持つマチルダだけど、彼女の言動は周りの人たちを傷つけ最悪の結果を招いてしまう。これが思春期ってやつなのかもしれないけど、彼女が抱える苦しみはあまりにも大きくて一人で抱えきれるものではない。お願いだから誰か気づいてあげて!と思いながら読んでいたけど、結局めちゃくちゃなやり方ではあるけれど、自分で乗り越えてしまったのかな。自分の悲しみでいっぱいいっぱいで何もしてくれなかった母親が自分に重なって痛かった。2010/11/12