内容説明
浮遊バクテリアが建物を侵蝕し、情報伝達物質により政府が国民統制する都市を舞台に、主人公と女友達の曖昧な一夜を描いた表題作、“野天人”だったという叔父の後妻をめぐる少女の回想「野天の人」、“町”に侵入してくる悪魔と戦う公社職員の挫折と希望「駆除する人々」ほか、期待の幻想小説作家による硬質にしてフェティッシュな7篇を収録。
著者等紹介
平山瑞穂[ヒラヤマミズホ]
1968年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。2004年、『ラス・マンチャス通信』で第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。以後、多彩なジャンルの作品を精力的に発表している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かとめくん
10
「野天の人」人にとって自由とは、そして幸福とは…「十月二十一日の海」「精を放つ樹木」自分を見失いそうになると、何かが忍び寄ってくる。「均衡点」未開の地からやってきた彼らのパワフルさが良い。「棕櫚の名を」こういう加害者や被害者には自分もいつ転じるかもしれないというリアルな恐怖を感じた。「駆除する人々」これって今の原発問題と同じじゃん!人任せではいけないってことだよね。「全世界のデボラ」この題名のセンスといい、生と死の狭間のような世界観といい、吸い込まれそうだ。2012/01/12
野のこ
9
デボラのようになんか怖い作品集。まさに想像力の文学!初めは境界線の向こうにある奇妙な世界に戸惑いましたが、中盤からその不思議にひきこまれました。棕櫚、たしかに見方によっては不気味。読みごたえがあっただけに読み終わって残念、もっとこうゆう世界観、覗きたいです。2016/07/14
あや
7
著者の作品は初読。初めはどうもあまりピンとこなかったけど、読んでいくうちに気に入った。幻想性を持った不穏な世界が魅力的。ベストは「均衡点」。ヤトゥル語の文法が面白い。2009/05/30
かりさ
7
『ラス・マンチャス通信』好きな私にとっては待望の1冊(と言っていいと思う)。近づいても近づいても一向に手に触れることのできない靄の向こう側にあって、正体の見えない不穏な感じが作品全体に漂っていて非常に好み。現実であり、幻想であり、行き来するうちにぐるぐるされる曖昧さがどの短編にも配されていて堪能しました。得体の知れないモノがひたひた来る不穏さ加減はラスマンほどではなく、そういった意味では長編のほうが幻想世界により浸れたのかなぁ、と。「野天の人」「駆除する人々」「全世界のデボラ」世界観が好き。2009/05/25
浦
5
違和感や不安感を心の中に残す描写を淡々と重ねられることで、現実的で悲壮感のある、少し気持ち悪さが残る独特の雰囲気に呑まれていく。描写力があるからこその作風だと思う。 今まで読んだ平山さんの小説の主人公は、青春の中にいるか、大人になってはいるが青春を過去にできていないという感じだった。しかし、この短編集に居るのは皆過去を一旦はきっちり区切った「大人」だ。 奇妙な「大人」の作品を「大人になれなかった大人」が読んでいる。憧憬、諦観、不安、嫉妬、一人取り残されていく自分の底に溜まる、不安定などろどろが目に映る。2015/07/07




