内容説明
両親を事故で亡くした中学1年生の如月タクマは、母方の実家に引き取られるが、そこでは魔術崇拝者の祖父が密室の蔵で怪死していた。さらに数年前、祖父と町長の座をめぐり争っていた一族の女三人を襲った斬首事件。二つの異常な死は、祖父が召喚した悪魔の仕業だと囁かれていた。そんな呪われた町で、タクマは「月へ行きたい」と呟く少女、江留美麗に惹かれた。残虐な斬首事件が再び起こるとも知らず…。
著者等紹介
飛鳥部勝則[アスカベカツノリ]
1964年新潟県生まれ。新潟大学大学院教育学研究科修了。1998年『殉教カテリナ車輪』で第9回鮎川哲也賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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W-G
292
何故に絶版なのか、埋もれている名作。カー+ボーイミーツガールというよりは、デビュー当時の浦賀和宏や古野まほろ系統に属する、青春小説に黒死館~をトッピングしたイメージ。おそらく、私の人生で最も高値で買った本だが、楽しませて頂いた。ミステリの枠で見ると結構な無茶苦茶をやっているが、世界観と余韻が抜群に良く、説明不足であまり本筋に絡みの無い怪異(ヒトマァマ、蟹女等)も雰囲気造りとしては効果的。マニアックさが横溢しているが、それ故に刺さる人にはどこまでも深く刺さる物語。盗作騒動が無ければ…と考えずにいられない。2016/10/10
nobby
119
今まで読んできた飛鳥部さん要素全て盛り込んだ豪華さ満喫しての膨満感(笑)怪奇な連続殺人の舞台は不気味で閉鎖的なムラ社会。密室・バベルの塔・ダンテ神曲絡めた図像解釈や本格ミステリは初期風、著者ならではの蘊蓄満載のオカルト・ホラー、SMや背徳な姦淫な変態、悪魔崇拝からのトンデモ展開やファンタジー、そして最後まさかの恋愛で終幕。そのボリュームに圧倒されるが、気付けばバラまかれた伏線を見事に回収するのはお見事!集団による理不尽な追い詰めに怯え続けながらの後半の二転三転は爽快。2017/04/25
buchipanda3
113
呆然とした中で異様な幻想に酔わされたような気分となった。さらに終盤はその余韻を引きずりながらも、思考が論理的に切り替わっていくながれをじっくりと堪能。謎解きの方もその大胆かつ異様さにまた呆然となる。憑き物の奇異な因習が残る田舎町に神曲の地獄や悪魔崇拝が登場するなどある意味やりたい放題。それでいて途中まで割とダラダラとした展開で、主人公・タクマがあまり事件に関心が無いんじゃないかという風に見えて漫然と読んでいたのだが、最後にはハマっていた。作中作のオススメモダンホラーの力作ぶりにも感服。2020/03/21
紅はこべ
110
この作家は図像学ミステリ専門という印象だったが、本作は京極、三津田の得意な憑物を題材の民俗学、宮部みゆきの『荒神』のような化け物もの、ポーの某短編、欧米の悪魔崇拝もの等、色んな要素をごった煮的に詰め込み、最後はきちんと本格的謎解きになっているという。しかも実は恋愛ものだったりして。読み易くはなかったが。冗長だし。それにしても中1でラ・ロシュフーコーやダンテや旧約聖書に通暁しているこの主人公、何者よ?不二男のモダンホラーへの知識と読解力も中1とは思えない。重苦しい中、不二男のエッセー部分は息抜きにはなった。2016/07/11
aquamarine
86
密室で不可解な死に方をした祖父、一瞬のうちに起きた三人の首切りによる死。村の秘密は比較的早めに想像がつきますがホラーを読んでいるようなおどろおどろしさは常につきまといます。中学生とは思えないほど大人びた子供たちの恋愛要素も絡む青春小説であり、殺人事件の解はめちゃくちゃなものではなくちゃんと説明がつくミステリ。さらにラストに仕掛けられたもう一枚は想像していたもののひとつ上を行き、最早楽しむのを超えてその作りに感心しました。好き嫌いのふり幅がとても大きい本だと思いますが、読むことができて本当に良かったです。2016/01/30