内容説明
パリへと侵攻してくるナチスから逃れるため、若く美しい人妻は二人の子供を連れ“大脱出”の列に加わった。だが、敵の銃弾は容赦なく民間人へも襲いかかる。周囲の人々が無惨にも殺害されていくなか、彼女と子供たちの命を救ったのは灰色の目をした不思議な少年だった。やがて迷いこんだ無人の一軒家で、女は少年とのはかない愛に目覚めてゆく…戦争に翻弄される女心のゆらぎを鮮やかに描きジョルジュ・シムノン文学賞に輝いた愛の物語。
著者等紹介
ペロー,ジル[ペロー,ジル][Perrault,Gilles]
1931年、パリ生まれ。作家、脚本家、ジャーナリスト、エッセイストとして長年にわたりフランス言論界の第一線で活躍してきた。アルジェリア独立戦争に空挺部隊員として参加した経験から描いた小説Les Parachutistes(落下傘兵)で1962年にデビューし、その後も自らの戦争体験をベースにした作品を数多く発表している。1996年に発表した歴史評伝Le Secret du Roi(王の秘密)でフランス二大文学賞の一つフェミナ賞を獲得した。『かげろう』でジョルジュ・シムノン文学賞受賞
菊地よしみ[キクチヨシミ]
1951年生、東京大学文学部仏文科卒、翻訳家
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感想・レビュー
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めしいらず
64
極限状況を生き抜くこと。そこに生きる歓びを見出すこと。危機の中にあって女性の冷静さ、したたかさを見せつけられるような結末。主人公の濃やかな心理の移ろい、淫靡な欲求の描写が読みどころ。2016/04/28
ケロリーヌ@ベルばら同盟
46
麦の穂をかき分け、赤いハイヒールの足がよろめきながら走る。6月の炎暑、皮肉な程青い空に響くサイレンと爆撃音。ナチス・ドイツの侵攻を逃れ、パリから南へ避難する大脱出の列に降り注ぐ機銃弾。二人の子どもを抱え、逃げ惑う若い母親を救ったのは、15,6歳と見える灰色の瞳をした少年。無人の館に宿を求めた、ブルジョワジーの母子と、不思議な風体、年齢に似ぬ頼もしさを持つ少年との、甘やかさと緊張感を伴った共同生活。戦争の行方と、少年の正体への疑惑に揺れつつ、刹那的な恋にのめり込んでゆく女性の心理が陰影豊かな筆致で綴られる。2021/03/26
やまはるか
13
母と幼子二人が逃避中にドイツ軍機の機銃掃射に遭遇、助けてくれた少年ジャンと共にフランス南部を目指す。人々が立ち去った村で戸締りされた民家に侵入し、母子3人と少年の避難生活がはじまる。ジャンは村に出掛けて食料などを調達して親子を支えるが、しかし、戦闘は一週間前、彼らが機銃掃射を受けた翌日に終わっていた。物語の主題は三十代の母親と少年ジャンで、戦闘が終わっていることを知らせる憲兵との遭遇により急展開する場面はサルトルの「壁」を思い出させた。物語の中にヒントは少なく、巻末の解説に読み不足を助けられた。2020/11/12
貴
12
戦争とは何か、がうまく理解できなかった。映画を見ることでほんの少し分かったょうな気がしました。2022/12/07
ほしいもアボカド
3
葛藤=心をすり減らし強くする。危うさを残したままで。2015/05/07