内容説明
わたしは高名な料理評論家として美食の限りをつくしてきた。いま死の床で、生涯最高の味を選び出そうと薄れゆく記憶の中をさまよっている。それがわたしの最後の晩餐だ。思えば、どの食べ物にも懐かしい誰かとの思い出がつまっている。素朴な家庭料理の美味しさを教えてくれた祖母や伯母、わたしの肥えた舌に挑戦してきたシェフたち…。家庭も顧みず食べ物に生涯を捧げてきた男にとっての究極の味はなんだったのか。フランス最優秀料理小説賞受賞作。
著者等紹介
バルベリ,ミュリエル[バルベリ,ミュリエル][Barbery,Muriel]
1969年生まれ。ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)で哲学の教員資格を取得し、現在はIUFM(教員養成短期大学)で教鞭を執っている
高橋利絵子[タカハシリエコ]
中央大学仏文学科卒、フランス文学翻訳者
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
よこたん
50
“犬のあたまから漂ってくる、温かいパンの匂い。” ブリオッシュのようないい匂いのする、主人公の愛犬の思い出が眩しくて、私ももういないうちの犬のにおいを思い出す。死を目の前にして、消えゆくろうそくの炎が揺らめくような、きれぎれの記憶。思い出したいのは「あの味」。料理批評家として生きてきた男の回想と、彼を取り巻く人々の思いが交互に語られる。なかなかビターなお話だったが、食べ物、料理の描写が素晴らしかった。訳者さんの言葉選びにも感謝。日本の刺身、モロッコのパン、スーパーのふやふやのシュークリームにゴクリ。 2019/02/24
ケロリーヌ@ベルばら同盟
49
【第141回海外作品読書会】『優雅なハリネズミ』のミュリエル・バルべリの長編第一作。舞台はあのグルネル通りのアパルトマン。余命48時間を宣告された高名な料理評論家が、人生の最後を飾るのにふさわしい味を求め、記憶の中の旅に出る。身体は豪奢な寝室に臥していても、味覚の経験を語る口調は瑞々しく、繊細かつ奔放で、その豊潤さに陶然とさせられる。それと交互に語られるのは、彼に所縁の人々の独白。料理に比して、自身のことは多くを語らぬ偏屈で傲慢な印象の主人公の人となりが、他者の眼を通して浮き彫りにされていく構成が見事。2019/09/16
愛玉子
13
死ぬ前に、最期に食べたいものは何?死の床にある著名な料理評論家は、薄れゆく意識の中で究極の味を思い出そうと記憶をたぐる。記憶の中の豪華な、あるいは素朴な料理の描写が続くが、あまり食欲をそそられないのは私がフランス料理に縁がないからか。(池波正太郎だとお腹が空く)そして、とにかく料理にしか関心のない主人公がなんだか哀れに思えてくる。『優雅なハリネズミ』のルネがちょっぴり登場するのだが、この時はまだ優雅設定を思いついてなかったのか、全くの別人でちょっと驚いた。そして一番の驚きは寿司のくだり。2009/12/12
こっぺ
10
フランス最優秀料理小説賞とはなんと美味しそうな賞であろうか。日本の小説にはないのかしら、最優秀料理小説賞。まとめて読みたい。読友さんが読んでいなかったら出会えなかった作品。感謝です。究極の美食を極めた料理評論家が、最期に求める味は何か。記憶を辿っていく。何を食べるかじゃなくて、誰と食べるかが、私には重要だなぁ。会話が大事。美味しいね、って言える相手がいないと。ちょっと味気ないから。【図】2010/07/09
S.Mori
9
料理評論家が死の直前に思い出す究極の味は何か?こんな魅力的な謎を軸に物語が進んでいきます。彼の回想と彼を取り巻く人々の思いが交互に描写され、厚みのある物語になっています。私は小食傾向で、食べるものにもほとんどこだわりがないのですが、ここに出てくる食べ物は本当においしそうで、読んでいるとお腹がすきました。例えば66ページから描かれる日本の刺身の描写は見事で、新鮮な刺身を口の中に入れた時の旨みが鮮やかに伝わってきます。結末で分かる「至福の味」はある意味でありふれていますが、納得できるものでした。2019/06/02