内容説明
8年間、だれとも口をきかず、日中ずっと児童養護施設の机の下でおびえている15歳の恐怖症の少年ケヴィン。ひとたび恐怖心が爆発すると、猛獣のように暴れまわり、周囲や自分を傷つける。180センチほどもあるこの少年を、セラピストのトリイは心底、恐ろしいと感じることがあった。ふたりで机の下にもぐっての長い努力のすえ、ついにケヴィンは言葉を発し、あらゆる症状が快方に向かった。が、ある日、ケヴィンが描いた一枚の絵を見てトリイは仰天した。それはあまりに精密で写真のようにリアルだった―男が腹を裂かれ、路上に腸をぶちまけられ、死肉をカラスがついばんでいる…彼が心の奥に封じ込めていた激しい憎悪が解き放たれたのだ。そして、彼自身と妹たちが義父から受けてきた、おぞましい虐待の事実がひとつずつ明らかになっていく。一時はすっかり治ったように見え、トリイの手をはなれたケヴィンだったが、その後、傷害事件を起こし、精神病院や感化院へと送られてしまう。怒りと憎しみの虜となった少年に、救いの道はないのか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ネロ
21
          
            凄いな。著者の本は初読みだが、良質な読書体験となり心に残る一冊となりました。 虐待経験から心の檻の中で生きる子ケヴィンと、著者でありセラピストとのトリイとの"なおる"までの実話。序盤から中盤の、まるで別人になるケヴィンだったり妹の件だったりに震えました。しかし、そんな酷く重苦しい物になってしまいそうな内容であるにもかかわらず、文筆力と愛情(とチャリティの存在も)がちょっとした物語を観ている様な気にさせてくれた。訳も良いのかな。 調べてみると同時進行で他にもハードな子を請負っている様で、凄すぎるぜトリイさん2022/12/24
          
        キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
20
          
            この子は普通に生きていけるのかな…2021/06/30
          
        caramel
16
          
            チャリティにしても、ケヴィンにしても、これほどまでに根気よく付き合い、愛情を持って接しているトリイにはやはり尊敬します。だけどお話が進むにつれ、気づくと自分もトリイと一緒に悩んだり喜んだりしていて、毎回トリイの本は読んでいて楽しいです。ケヴィンは何度も問題を起こしていたし、初めの頃はみすぼらしいという表現がやたら出てきていたけど、心の傷による辛さは相当だったんだろうし、そんな彼がどんどん成長していく姿はとてもカッコよかった。2022/09/04
          
        りおん
5
          
            ケビンはケチャップで和えたスパゲティーが食べられない。それは血塗れの脳ミソに似ているからと言う。トリイはそう思って見たことがないから不思議に思った。ケビンは自分の名前が嫌いだ。弱そうに見えるからだそうだ。後から、彼の妹は義父に頭を床に叩きつけられレンジの鉄板で頭を割られ脳ミソがケビンの居た所まで飛んできた、とトリイは彼から聞く。ケビンは自分が強かったら妹を守れたかもしれない、と思っていたのだと思う。児童虐待などという生易しい言葉では計り知れない壮絶な人生を歩む子供たち。2018/12/22
          
        mofu
3
          
            トリイシリーズのなかで少しテイストの違う話。対象が知的障害の少年ではなく、虐待による情緒障害の青年。ハードなトリイのノンフィクションのなかでも、虐待の内容が悪質すぎる。義父はキャロルを肉体的に殺したが、ケヴィンの心も殺している。その背景もあり、ケヴィンの心の病はかなり深刻で、ケヴィン自身、恐ろしい狂気を抱えた青年だ/そんな彼は読者から見てとても魅力的でもあった。破壊的でありながら穏和で優しく、純粋で懸命な面がある。そしてトリイとの会話文から聡明なこと、洞察力に長けていることを感じさせる。芸術的な才能もある2024/12/06
          
        

              

