内容説明
一枚のフロッピーディスクに、ある大学教授の生涯の記録が打ちこまれていく―。彼の名はレオポルド・スファックス。フランスに生まれ、第二次大戦中には反ナチ運動に参加、その後アメリカに移民し、文芸評論集『悪循環』を発表して、一躍、時代の寵児となった。だが、彼の研究室に「彼女」が現われた日から、スファックスの栄光に満ちていたはずの過去は、もろくも崩れはじめる。そして、ついに起こった忌まわしき殺人―。英国文壇の俊英が技巧の粋を凝らして「究極のフーダニット」に挑む問題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
91
大学教授で評論家のレオポルド・スファックスには人に言えない秘密があった。その秘密ゆえに彼は苦しむのだが、著作の『悪循環』を発表して社会的な注目が集まり、ますます秘密を話せない状況に追い込まれる。そこにある女性が現れて―――。文芸評論とミステリと言う水と油の要素を組み合わせた趣向に痺れた。ミステリを読みなれた人なら犯人は分かると思う。それでもこの切れ味鋭いプロットはたまらなく良い。最後まで読んだ時に、「作者の死」と言うブラックユーモアに満ちた題に苦笑いした。2016/12/04
misui
12
ポール・ド・マンをモデルにしたポストモダン小説。ある文学理論を提唱した大学教授が戦争協力の過去を封じようと画策する中で殺人事件が起きて……とミステリ風に展開していく。もう「ポストモダン小説」というだけで人を食った作品なのは確定で、テキストの自明性がガラガラと崩れていく様を味わうことができる。最後まで読んでも結局何も信じることはできない、私が読んだのは何だったんでしょうね?というオチに至るまでがテクニカルに構築されており、ポストモダン小説ってこうだよな、といい感じに脱力。2015/05/15
eirianda
7
なんだか小難しい知的な思考に目眩しされたような、構成も、人を喰ったような内容も全体は小気味よく、面白く読みました。 やはり、バルトを読んでないとその面白さは半減するんでしょうか? アストリッドの会話場面の反復の件とか、もしかして何かのパロディ?? と思いながら…。それでも一応面白いと思ったのですが。2017/05/31
茶幸才斎
3
かくして、第二次大戦後にフランスから米国に移住し、先進の文学批評理論により一躍時の人となりながら、他言を憚る過去の罪過により、それが返ってレオポルド・スファックス教授の命取りになろうとしていた矢先、彼の伝記執筆を求める女性の出現により、彼がある決意とともにApple Macにタイプしたテクストは、フロッピーに保存され、ゴミ箱にドラッグされて読者の目に触れれば、待つのはただ、心かき乱される秩序の混濁のみ。何故なら我々のこの世界は、Apple Macのゴミ箱の中、無秩序・無価値なゴミ箱の中に過ぎないのだから。2013/05/25
きゅー
2
面白かったけれど、結末の解釈が上手くつけられない。話者スファックスが求めていたのは作者の死であり、テキストのアポリア(行き詰まり)だったはず。そうであれば、実に完璧に話を締めくくったわけだ。しかしそれでも疑問は残る。作者とは誰だったのか? スファックスが言うように作者とは物語を書いていた者ではなく、逆に物語によって規定される人物であるとすれば…… ポストモダン思想の”皮相な部分”を逆手に取った小説なので、ごく簡単にでもその思想を知っておいたほうが楽しめると思う。2011/12/28