内容説明
本書は、あらゆる女の物語、母を失ったあらゆる娘の物語、時とともに力が衰えていくあらゆる女家長の物語、がむしゃらに人生を突っ走ってきたが、ある時ふと手綱を緩めてしまうあらゆる寡婦の物語である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
355
冒頭の1文「母が死んだ」は、カミュの『異邦人』を想起させる。Aujourd'hui, maman est morte. エルノーが作中でボーヴォワールに言及していることからすれば、彼女がカミュを意識していたことは十分にありそうだ。母親の死から始まって死で終わる構成は、母親に捧げるレクイエムだとも言えるだろう。その存在の確かさが不確かさに収斂してゆくのであり、読者もまた強い寂寥とともに彼女を送ることになる。そして、彼女の死は、個としてのそれであると同時に、家族の消滅であり、一つの時代の終焉でもあった。 2022/10/22
まふ
111
被支配階層に生まれ、そこから脱出しようとした母が「言葉と思想をもった支配階層に移った娘(作者)をそれほど孤独でも不自然でもないと感じさせるために戦った」一生の記録である。たった130ページの文章の中に凡凡の万語に比する内容が込められている。学問的教養はなくても生きた知恵を旺盛に取り込み、自己の生活の中で活性化させた「母」の「志」は見事な「生きた成果」を作者の人物像として作り上げた。乾いた、抑制の効いた文章で綴られる作者の一連の作品は身近な日常の中で繰り広げられる巨大な一女性の人生の物語絵巻とでもいえよう。2023/04/12
新地学@児童書病発動中
106
仏の作家アニー・エルノーが自分の母の死を描いた傑作。抑制された筆致の中に深い悲しみが感じられて、読んでいて泣きそうになった。母と娘の関係はこのように深く、重たいものなのだろうか。母の生き方を描きながら、フランスの社会の構造が浮かび上がってくるところが見事だ。母は労働者階級のままで、エルノーはその上の中産階級に登っていく。フランスにこれほど階級差があるとは知らなかった。母は晩年はアルツハイマー病を患い悲惨な状態になってしまう。それでも作者は尊敬をこめて母の最期を記す。その点に娘としての深い愛情を感じた。2018/02/11
ともっこ
30
女工から商人となり、娘を自分たちの階級から脱却させるため身を粉にして働いた母。 時折見せる娘や上の階級に対する矛盾した僻みと憎悪。 感情を抑えた静かな文章の中に、隠しきれない彼女の母への想いが滲み出る。 エルノーの魅力満載の傑作。 その見え隠れする感情に共感し、その度涙せずにはいられなかった。 『シンプルな情熱』を読んだときと同じような感動を味わった。2022/10/09
ykshzk(虎猫図案房)
26
カミュの異邦人を思い出させる書き出しだが、書かれているのは、娘の中に記憶として残る母の「生」の姿。我々が親を見る時に多少かけているであろう様々なバイアスを取り去って、親をひとりの人間としてリアルに描写することは難しいことだ。しかし、他人として突き放すような気持ちで親を見ることで、理解出来る世界があると感じた。「母がいるという錯覚のほうが、母がいないという現実より強いこの感じは、多分忘却の最初の形なのだろう。」もう居ないのに、出先で、これ母に買っていったら喜ぶな、とか思うことは、私にとっては愛しい痛みだが。2025/02/03
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