内容説明
これはわたしの兄の、奇妙な犯罪行為と失踪の物語である。魂を揺さぶるアメリカ文学。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
田中
26
優しいけど不器用な主人公ウェイドが、徐々に孤立し身を滅ぼしていく心情を繊細になぞった長編である。彼の父親は下級労働者だった。大酒飲みの癇癪もちで、母親や子供たちをわけもなく殴っていた。酔っ払ぱらっては怒り、理不尽な暴力をふるう。そんな暗い家庭で育ったウェイドは、40歳をすぎても殴られた恐怖と哀しみは鮮明に焼きついている。無防備な子供にたいする親の暴力がどれだけ子を損なう惨いことなのか胸が痛む。ウェイドの自己本位さは父親の影響があったのだろう。親父の呪縛がまとわりつき残響になった。魂が揺さぶられる作品だ。2022/05/13
maja
13
鹿狩り猟期のニューハンプシャーの田舎町を背景に、ウェイドという男が弟によって語られる。階層社会のなかで黙々と働くウェイドの姿と寒村の情景が浮かんできてぐいぐいと引き込まれていく。やがて起きる事故は、彼にとっては唯一確信が持てたことだったのだろうか。事故への執着はますます彼を孤立させて潰していく。家族と故郷を捨てたが、実はどこにも心の拠り所が無い弟ロルフも透けて見えてきて、彼ら兄弟の生い立ちや根にある貧困と閉ざされた田舎町の物語が浮かび上がってくる。 2020/02/08