内容説明
空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして―。世界は本当に終わってしまったのか?現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。
著者等紹介
マッカーシー,コーマック[マッカーシー,コーマック][McCarthy,Cormac]
1933年、ロードアイランド州生まれ。大学を中退すると、1953年に空軍に入隊し四年間の従軍を経験。その後作家に転じ、『ブラッド・メリディアン』(1985)の発表などにより着々と評価を高め、「国境三部作」の第一作となる第六長篇『すべての美しい馬』(1992)で全米図書賞、全米批評家協会賞をダブル受賞した。第十長篇である『ザ・ロード』(2006)(早川書房刊)は、ピュリッツァー賞を受賞し、世界的なベストセラーを記録した。名実ともに、現代アメリカ文学の巨匠である(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
480
終末世界と化した北米大陸を南下してゆく父と少年。おそらくは最終戦争後の世界なのだろう。作品世界はSFを仮構するが、その本質においては純文学のそれである。ここに展開する風景は終始一貫して荒廃の極にある。少年は生まれてから、ただの一度も鳥を見たことさえないのだ。そして、もうその機会は永久に失われている。人類のほとんどが死に絶えて、人心もこれ以上にないほどに荒んでいる。他者の存在は食糧なのだ。しかし、この極限の小説世界はそれにもかかわらず美しい。とりわけ末尾の川鱒の描写はまさに珠玉であり、かすかな希望を残す。2015/11/20
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
160
終末の気配が色濃く漂うロードノベル。廃墟と化した世界を南に向かって進む父と息子。何が起こったか明らかにはされないが、暗雲が太陽を隠し気温は下がり続ける。植物は死に絶え、動物の姿をみる事もほとんどない。時計は1時17分で停まったまま。『南』は生きるための唯一の道だ。食料を手に入れるため、人は奪い殺し合う。そんな世界で生まれたにも関わらず、天使のように純真な心を持つ少年。父の言葉を信じ『善い者』であり続けようとする。息子を守るため鬼となった父親も、極限状態の中で『道』を指し示し続けた。希望ではなく愛のために。2016/07/02
Kajitt22
146
静謐で壮絶。すべてが灰色となった近未来のディストピアでの、父と子の道行き。その文章世界に最初の一行から引き込まれた。遅々として進まない南への旅、変わらず続くダークなトーン、尽きてくる食糧。にもかかわらず読まずにはいられない素晴らしい小説でした。この父と子と一緒に旅ができて良かったと思う。ヘミングウエイの短編に登場する若い主人公ニックの旅を思い出した。この作家の「すべての美しい馬」も読みたい。2020/10/23
ケンイチミズバ
123
ウクライナから一人でポーランドまで歩いた少年を思い出した。こんな状況下でも子供が産まれたことに希望と責任が、ほんの少しの光が射した。しかし、その光を見たのは父親だけだった。妻の気持ちを知り、絶望の淵に立たされた家族に残された弾は3人で2発。子供や妻が酷い目に合わないため、苦しませないためのお守りのように持っていたリボルバー。子供を苦しめる者は悪者、悪者を殺す父はいい人。戦争の矛盾をつく鋭い言葉が少年の口からも出て来る。僕たちはいいものだよね。パパ。二人の旅を自分の家族がもし同じ運命ならと思いながら読んだ。2022/10/31
まふ
111
全人類的「暴力」=核戦争後の廃墟化した世界を描いた衝撃的作品。登場人物は父と子供の少年。瓦礫の中を生きるために南に向かって歩き続ける二人の旅路はおそらく文明以前の人間と同じ姿に戻っていただろう。空腹を満たすための人肉嗜食を避けつつ一途に歩き続ける「生きる意志」の父と「天使のやさしさ」の息子の会話は読者を勇気づけ、ページを進めさせる。父は息子を「善い人」の手に渡すことができ、次の世界への希望をつないだ。最後の抱擁では思わず涙が出てしまった。ピューリッツァ賞受賞も頷ける作品。G1000 。2023/06/02