内容説明
もはや来ることのない列車を待ち続ける老人の狂気と悲しみを描く「北部行きの列車」。まだ見ぬ家族から初めて手紙をもらった孤児の落胆を綴る「郵便受け」。まるで著者自身の無関心を象徴するかのような表題作「どちらでもいい」ほかに加えて、『悪童日記』へのつながりを思わせる単行本未収録の初期短篇「マティアス、きみは何処にいるのか?」を収録。沈黙をつづける著者の絶望と喪失感が色濃く刻まれた、異色の掌篇集。
著者等紹介
クリストフ,アゴタ[クリストフ,アゴタ][Kristof,Agota]
作家、脚本家。1935年ハンガリー生まれ。1956年のハンガリー動乱の折りに西側に亡命して以降、スイスのヌーシャテル市在住。1986年にパリのスイユ社から世に送り出したフランス語の処女小説『悪童日記』によって一躍脚光を浴び、その後、続篇の『ふたりの証拠』(88)、『第三の嘘』(91)を発表して三部作を完成させ、力量ある第一級の作家としての地位を確立した。三部作は世界30カ国以上で翻訳され、数多くの熱心な読者を獲得した。日本では1991年に『悪童日記』が翻訳出版されると、読書界に衝撃と感動の渦が巻き起こり、多くの文学者・作家・評論家から絶賛の声が寄せられた
堀茂樹[ホリシゲキ]
1952年生、フランス文学者、翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nuit@積読消化中
124
アゴタ・クリストフによる初期掌編集。 夢想、独白、回想など、著者独特のリズムを持った文章が素晴らしい。これを経て後の『悪童日記』三部作など傑作が生まれたのだと思われるものもあったり。どれを読んでもジワリと心に沁みるような感覚があります。2018/03/20
優希
50
静かでつかめない短編集でした。だからこそ心にふわりと染み渡るように思います。2022/11/16
zirou1984
49
嘘を付くことが弱い事だとは思わない。本当の弱さとは嘘を付いている事を認めないこと、嘘を付いていると気が付かない事を指すのだから。短編集というより喪失と悲哀のショートショートの様な本作は、タイトルが示している通り時に投げやりな感はあるものの、それが彼女の人生にこびりついた絶望と後悔に一層凄みを与えているのだ。そう、皮肉な笑いは虚無をやり過ごしてくれるが、それはただ先送りしているだけに過ぎなかったのだと気が付いた瞬間の、真っ逆さまに落ちていくあの感覚。商品として体裁を整えられる以前の、剥き出しの虚無の断片集。2015/02/12
Y2K☮
40
著者初読み。家、町、通り、家族など身近な何かに対する喪失感を軸に組み立てた雑記的な掌編小説集。タイトルの言葉を口にする際、人は心の中で「どうせ」と付け加える。淡い期待や楽しみに待った約束をあっさり裏切られた過去の痛みを思い出して眉をひそめる。「間違い電話」はまさにそんな感じ。「うん、知ってた」と嘘でも云いたくなる。愛すべき対象へのサイコ的な思い込みに戦慄する「先生方」もいい。また一人自分向きの作家を見つけた。しかし女性とは思わなかった。確かに別ジャンルとはいえパトリシア・ハイスミスに近い空気は感じたけど。2015/09/09
akio
37
物語と散文。夢と現実。生と死。そんなものが代わる代わる現れて時々混ざりあい、まるで白昼夢のような作品たちに魅了されます。ところどころに三部作の双子たちや「昨日」に繋がるものを感じました。「どちらでもいい」そう小さく呟いてみたくなります。2018/02/28
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