内容説明
52歳の大学教授デヴィッド・ラウリーは、2度の離婚を経験後、娼婦や手近な女性で自分の欲望をうまく処理してきた。だが、軽い気持ちから関係を持った女生徒に告発されると、人生は暗転する。大学は辞任に追い込まれ、同僚や学生からは容赦ない批判を受ける。デヴィッドは娘の住む片田舎の農園へと転がりこむが、そこにさえ新たな審判が待ち受けていた―現代文学史上に輝く、ノーベル賞作家の代表作。ブッカー賞受賞。
著者等紹介
クッツェー,J.M.[クッツェー,J.M.][Coetzee,J.M.]
1940年、南アフリカのケープタウン生まれ。コンピュータ・サイエンスや言語学を南アフリカとアメリカで学ぶ。1974年、『ダスクランド』で長篇デビュー。『石の女』(1977)と『夷狄を待ちながら』(1980)で、南アフリカで最も権威あるCNA賞を受賞。1983年に発表した『マイケル・K』で、英国のブッカー賞、フランスのフェミナ賞を受賞するなど世界中で高く評価される。1999年発表の『恥辱』で、史上初の二度目のブッカー賞を受賞。2003年にはノーベル文学賞を受賞した。同年には『エリザベス・コステロ』(早川書房刊)を発表している。2002年よりアデレード大学で客員研究員となり、オーストラリアで執筆活動を行なっている
鴻巣友季子[コウノスユキコ]
お茶の水女子大学大学院修士課程英文学専攻。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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遥かなる想い
294
現代南アフリカの空気を 感じる物語である。 文学部教授デヴィットが 教え子と関係を持ち、 転落していく… 公私とも、壮りを過ぎたこと を認識しながら、その事実 を受け入れられない男… 奇妙なことに、著者は その日常を他人事のように 描く。 アパルトヘイト撤廃後の 不穏な南アフリカ情勢を 背景にしながら、頻発する レイプ、強盗事件、人種対立…テーマの重さと、 文体のアンバランスさが 印象に残る。 娘ルーシーの決断、 強さが潔く、底に流れる 生命力のようなものを 感じる、そんな物語だった。 2015/07/14
こーた
195
作家は主人公を、彼、といって突き放す。共感を拒否し、精緻に、まるで計算でもしているかのように、一歩いっぽ確実に、彼を転落させていく。それは彼の視点のみで語られる。彼が見て、彼が歩む物語だ。娘にも学生にも、隣人にも強盗にも、それぞれの物語があるが、それらとは決して交わらず、誰かとわかりあうこともない。そうやって彼の物語を静かにじっと見つめていると、わたしの内にじわじわと彼が浸み入ってきて、いつしか寄り添うように読んでいる。突き放されたはずの彼の物語を。ひょっとしてこれは、わたしの物語ではないか。⇒2018/10/27
ミカママ
167
【原書にて読了】大学教授の主人公が教え子に手を出して大学を辞任、というところまでは、とにかく独特の英語に慣れるのと、主人公のウザったらしさに難航。舞台が娘の農園に移ったところからはストーリーにのめりこみました。全体を覆う静けさと暴力、生と死、所有する側とされる側と。主人公は単なるスケベ親父かと言うとそうではなく、彼の話す英語は知性を感じられてとても好き。ラストは...そうきたか。一気に涙腺崩壊して本を閉じました。うーん、今年の私のベスト3に入っちゃうかな。ブッカー賞受賞はダテじゃないぜ。2015/09/19
ケイ
162
50代男の「ライ麦畑でつかまえて」だと思った。あっけにとられる冒頭だが、南アの政策転換に思い当たると腑に落ちる。人種的優越性が抜けない50代白人男性。生まれた時からこの間までその享受は自然なことだった。文学的エロスを現実に持ち込み、新体制を受け入れ難い彼の行動は支離滅裂。彼が認識していくには時間が必要なのだ。そして、受けとめるために自分を殺してしまっているルーシー。描くために、女性が支配を甘んじて(望むのではなく、あきらめて、甘んじて)受け入れる状況を書く作者の手法は好きではないが、作品は好きだ。2016/08/26
まふ
115
クッツェーの第2回目ブッカー賞受賞作。南ア・ケープタウンを舞台とした、私小説と自然主義を交ぜたような作品。アパルトヘイト後の白人の生きにくさが見えた気がする。プライドの高い主人公の英文学教授の人間的ななしくずし的生き方は別れた妻、捨てた娘を頼りつつ生きてゆく受動的人生へとなだれ落ちてゆく。白人独身女性として農村で生きてゆく覚悟を持つ娘のルーシーに比して落ちこぼれ「文学青年」教授は寄る辺ない魂をもてあましつつ老境へと進んでいくのであろうか。読後感は相応にズシリと重かった。G489 /10002024/04/19
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