内容説明
上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻るが…現代イギリス最高の作家が渾身の力で描く記憶と過去をめぐる至高の冒険譚。
著者等紹介
イシグロ,カズオ[イシグロ,カズオ][Ishiguro,Kazuo]
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、5歳のとき、家族と共に渡英。以降、日本とイギリスの2つの文化を背景にして育つ。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年に発表した『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞。1989年には長篇第3作の『日の名残り』でブッカー賞を受賞した。1995年の第4作『充たされざる者』の後、5年ぶりに発表した本書は英米で非常に高く評価され、ベストセラーとなった
入江真佐子[イリエマサコ]
国際基督教大学教養学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
225
ミステリーしたての長編小説。500頁超に及ぶが、長い長い助走を経た最後の50頁にこそ、カズオ・イシグロの小説のエッセンスが詰まっている。読み終わって、その寂寥感の中にしみじみとした感動に浸れるのは、まさにカズオ・イシグロだ。2012/03/24
パトラッシュ
194
イシグロ作品は常に「信用できない語り手」の回想として展開するが、本作ではとりわけ色濃い。1910年代の上海とはいえ英国人女性の失踪を領事館関係者が探らず、主人公の親探しに無関係な人間や事件が語られるのは明らかに「捏造された記憶」だ。最も近い存在だったアキラや叔父が、実際は記憶通りの人間ではなかった。作者はこうした設定で、記憶に基づいて生きる人間の不安定さを描こうとしたのか。特に親と引き離された孤児は、わずかな親の記憶だけが頼りだ。主人公は別の孤児を引き取ることで明確な記憶の絆を手に入れる救いを得ているが。2020/02/26
れみ
150
イギリス人のクリストファー・バンクスは10歳の頃に相次いで失踪した両親の行方を探すため探偵を志し、ついにその目的を果たすため、上海へ。紆余曲折を経て知り得た両親に関する情報を知ったとき、私には彼は実はもっと前から「孤児」になっていたのかも…と思えてしまった。彼には知ろうとせずに生きていく道もあったはずだけど知ろうとせずにはいられない衝動に突き動かされたのかなあ。カズオ・イシグロさんの作品を読むのはこれで3作目で、今までに味わった独特の世界観は一緒だけど、そのなかではいちばんエンタテイメント性を感じたかな。2018/06/19
mukimi
120
抽象的で行間に問いを残す他のカズオイシグロ作品とは少し印象が違いエンタメ性が高めと感じた。内的衝動に忠実な登場人物達、そしてその衝動に上手くついてくるストーリーライン。まるで直木賞作品かのように伏線回収と運命的偶然が作者の手でプロットされる。映像化も出来そうだ。しかしやはり、簡単に自己肯定できない波瀾万丈の人生を生きた主人公の「孤児のように世界に立ち向かう」ことについての最後の文章は、戦い続けることと幸せであることの調和に苦戦する私に問いを残した。自分の人生を生きながらこの文章を咀嚼しなければいけない。2026/01/20
ペグ
120
ずっと以前の渋谷のブックファーストの壁面に大きな看板。書名と顔写真がとても印象的でした。さらりと感情を抑えた文体、けれど、だからこそ主人公や登場人物の心に忍び込んだ深い闇を見ます。大部分、過去の思い出が描かれている為、語り手に疑念がよぎりました。真実はどこにあるのか〜読み進むうちに過酷な事実が薄皮を剥ぐように明らかになっていく。流石、カズオ・イシグロの巧さです。古川日出男さんの解説が素晴らしい。「もう、よせよ。忘れた振りなんかするなよ」〜大切にしたい本が又一冊増えました。2020/11/21




