内容説明
1949年。祖父が死に、愛する牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレイディ・コールは、自分の人生を選びとるために親友ロリンズと愛馬とともにメキシコへ越境した。この荒々しい土地でなら、牧場で馬とともに生きていくことができると考えたのだ。途中で年下の少年を一人、道連れに加え、三人は予想だにしない運命の渦中へと踏みこんでいく。至高の恋と苛烈な暴力を鮮烈に描き出す永遠のアメリカ青春小説の傑作。
著者等紹介
マッカーシー,コーマック[マッカーシー,コーマック][McCarty,Cormac]
1933年ロード・アイランド州で生まれ、テネシー州で育つ。テネシー大学を中退、1953年に空軍に入隊し、4年間従軍した。5作の長篇を発表後、6作目の長篇である本書『すべての美しい馬』で1992年の全米図書賞、全米書評家協会賞を受賞した
黒原敏行[クロハラトシユキ]
1957年生、英米文学翻訳家。訳書『Mr.クイン』スミス。『儚い光』マイクルズ。『平原の町』マッカーシー。他多数
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
417
荒涼とした寂しい物語だ。それはメキシコ北部の風土感、とりわけ乾いた風と土埃によって一層に際立つ。主人公のジョンは、この物語の終わりでも、まだせいぜいが16歳か17歳である。にもかかわらず、彼の人生の輝かしい時はすでに終わっているのだ。これは史上のすべての悲恋の物語に比肩する忘れがたい作品の一つと言っていい。アレハンドラの後半生は、大叔母のそれのようになるのだろうか。もはや彼女にも失うものは何もなくなってしまったのだから。本書で、もう一つ特筆すべきなのは全編に展開する「馬」の存在であり、彼らの無私の愛だ。2017/02/11
遥かなる想い
242
奇妙な話だが、ひどくアメリカ的な本物語を 読みながら、映画における俳優は誰だった のだろうか..そんなことばかりを考えていた。 牧場で馬と生きたいという感覚、「馬」で メキシコに行こうとする心境は 日本人の私には理解できないが、彼らを 駆り立てる何かがあるのだろう。 それにしても アメリカ的な物語につきまとう 理不尽な暴力の連鎖と血の臭いは凄まじい。 最後はアレハンドラとの再会だけが心に残る、 そんな終わり方だった。 2016/05/05
ケイ
140
彼らの会話に慣れるまで何か読み落としたのかとページを戻った。慣れれば、その特有の文体がジョン・グレイディについていくのにぴったりなことに気付く。国境を越えれば正義が変わる。自分の国では手に入らない美しい馬たちがいる。そこはジョン・グレイディの国ではなく、彼には手を出せる物はない。彼が持って帰れたのは、アメリカから持ち出された物だけだ。そして判事との会話にようやく読者も息をつけるようになる。続編の「平原の町」の最後を解説者がネタバレしているために読む気をなくした。こういうことをして、肩書きが文学者とは。2016/04/29
扉のこちら側
126
2017年148冊め。【282/G1000】マッカーシー作品3作めで、文体にも慣れてきた。この作品の、この切なさにとっぷりと惹きこまれる。ジョンが国境の先に求めたその夢が誘う郷愁。まだ16歳の少年は失ったもの、これからも失っていく人生の影から、また何を得ていくのだろうか。この作品は3部作の1作めとのことで、続きもゆっくり読んでいきたい。 2017/02/14
まふ
118
主人公ジョン・グレイディの幼な友達ロリンズとの友情、メキシコ国境を超えて馬の調教生活、牧場主の娘アレハンドラとの叶わぬ恋、などが絵巻物のように語られ、20世紀のカウボーイ世界にのめり込ませる。主人公たちは僅か17歳の少年。小説とは言え、読者をうならせる「大人」の世界だ。この作者は「会話」で場面・状況・心理等の大半の場合を絶妙に表現してしまう。うまい!個人的には、自分の立場を「きちんと」理解してもらうためにわざわざ出かけて行った判事との対話は主人公のいさぎよさを表しており、妙に感動してしまった。G1000。2023/06/11