内容説明
作家のロロ・マーティンズは、友人のハリー・ライムに招かれて、第二次大戦終結直後のウィーンにやってきた。だが、彼が到着したその日に、ハリーの葬儀が行なわれていた。交通事故で死亡したというのだ。ハリーは悪辣な闇商人で、警察が追っていたという話も聞かされた。納得のいかないマーティンズは、独自に調査を開始するが、やがて驚くべき事実が浮かび上がる。20世紀文学の巨匠が人間の暗部を描く名作映画の原作。
著者等紹介
グリーン,グレアム[グリーン,グレアム][Greene,Graham]
イギリスを代表する作家であるとともに、20世紀のもっとも偉大な作家のひとり。1904年10月2日、ロンドン北西のバーカムステッド生まれ。オックスフォード大学卒業後、1926年から“ザ・タイムズ”に勤務。1929年に『内なる私』で文学界に登場した後、“ザ・タイムズ”を退社して作家活動に入る。1991年4月3日死去
小津次郎[オズジロウ]
1920年生、東京大学文学部英文科卒、1988年没。英文学研究家
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
366
キャロル・リードの往年の名画の原作。小説を映画化したものの場合、往々にして原作の趣きを損なってしまいがちなのだが、この作品に限っては、映画の方がいいかも知れない。リードの演出、ロバート・クラスカーのカメラワーク、オーソン・ウエルズのハリー、アントン・カラスの音楽といずれをとっても他には換えがたい風格だ。一方、原作のほうは映画に比べると、やや未整理な部分も目立つ。それにしても、第2次大戦直後、4カ国によって分割統治されていたウィーンを物語の舞台に選んだのは絶妙のアイディア。G・グリーンの作家的直感は見事だ。2014/04/15
遥かなる想い
242
映画のために書いたこの本 、読んでも渋い。 舞台は四大国に占領された ウィーン。 物悲しい時代の雰囲気が 全編に漂う。 ハリーを追うマーティンズ …友ハリーの闇商売の 真実を知ったアンナの 反応がマーティンズと 対称的で面白い… 観覧車のシーンは あまりにも映画的だが… 底に流れる昔ながらの 男の友情は、裏切りと 悔恨も含めて、古き良き 時代のあり方だったのかも しれない。2015/08/29
absinthe
202
映画が有名すぎる。実は本作は最初から映画化が前提で企画されたそうで、原作であるとともにノヴェライズに近いようだ。映画をNHKで観たのは小学生の時だったか?占領下という状況が良く判らなかった。物語は単純と言えば単純なのだが、あの悪党がソ連領に隠れていたため警察は迂闊に手が出せなかったなど、状況は読んで初めて理解できた。物が不足し、命の値段が下がりきった世の中だったのだ。かつて親友だった悪党を追い詰める話。2021/07/13
やいっち
93
極めて高名な作家の極めて有名な作品。買い求めたら、案外と頁数の少ないことに変な驚き。名作に長短など関係ないのだが、何処か大作という先入見があった。『第三の男』は、「キャロル・リード監督作品。第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にしたフィルム・ノワール」。「アントン・カラスのツィター演奏によるテーマ音楽や、ハリー・ライム役のオーソン・ウェルズの印象深い演技でも知られている」。あまり映画を観ない吾輩も遠い昔観た。2021/11/12
NAO
72
再読。第二次大戦直後、英米仏ソの四ヵ国によって分割統治されているウィーンを舞台にしたサスペンス。闇商人たちの暗躍に象徴される戦後の疲弊と頽廃の何とも言えない雰囲気が作品全体を占めている。映画前庭の原作というだけあって、映像的な効果が巧みに取り入れられ、とくにプラターの観覧車と地下の巨大下水溝という光と影が心憎いほどだ。ラストは、映画も原作もどちらもありだと思う。2017/02/16