内容説明
流れ出した原油が夜の帳のように広がる海岸で、美しい女が鳥の死骸を抱いて泣いていた。女の名はローレル・ラッソ。原油流出事故を起こした石油王の一人娘だった。海岸で彼女を見かけたアーチャーは、その翳りのある美しさに心魅かれ自分のアパートに連れ帰った。しかし女は、何もいわずに致死量の睡眠薬を持ち出して姿を消した。夫の依頼をとりつけたアーチャーは捜査を開始するが、両親のもとに身代金を要求する脅迫電話がかかってくるにおよび事件は深い傷口をみせはじめた。悲劇にもてあそばれる人間の苦悩を浮きぼりにする巨匠の野心作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
背番号10@せばてん。
24
1992年9月17日読了。リュウ・アーチャー シリーズ第18弾。読了したのは文庫版ですが、どうやっても「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」の画像しか出てこない。(2022年10月5日入力)1992/09/17
koo
11
シリーズ18作目。冒頭石油漏出事故現場で石油王の孫の美女ローレルとアーチャーが運命的に出会い翌日起きたローレルの誘拐事件解決に関わってゆくのがメインストーリー。通常の誘拐事件で焦点となるべき被害者でヒロインの筈のローレルと彼女の夫はそっちのけで存在感が非常に希薄、いつもの家族の悲劇のストーリーが大半を占めて構成に難ありでした。プロットが破綻しているとはいいませんが終盤の反転は強引過ぎな上意外性がなく後期作としては凡作ですね。ただ後期作らしい文体は素晴らしく菊池光訳ですが小笠原訳と遜色なかったです。2024/05/30
ボブ
5
マンネリ化、筆力衰え等言われるラスト前作品。いや面白い、プロットの冴え、個人的には縞模様、ギャルトン、ファーガスン、さむけ、一瞬の敵、人の死にゆく、の次位に好き。2017/12/28
Tetchy
5
石油が海へ流出するというシーンから始まる本書は従来探偵事務所に依頼人が来て仕事を依頼する定型から脱却し、自らをいきなり事件の渦中に飛び込ませ、依頼人を得るというまったく逆の手法を用いている。これは常に傍観者たる探偵を能動的に動かそうとした作者の意欲の表れではないだろうか?しかし今回も登場人物に対して容赦がない。誰一人、どの家族として倖せな者が出てこない。常に何らかの問題を抱えており、陰鬱だ。またモチーフとなる石油の海への流出が物語の進行のメタファーとなっているのも上手い。2009/05/26
しゃんぷーしょく
3
この話の探偵は推理をほとんどしない。ひたすらに会話をし、相手との心理戦を繰り返すことで真相に近づいていく様子が斬新に感じた。登場人物が多く混乱する場面もあったが、余計な描写が抑えられたハードボイルドな雰囲気で面白かった。2018/03/06