内容説明
1通の書き置きを残し、25年前に姿を消した幻の画家、リチャード、チャントリー。彼の作とされる絵が盗まれ、アーチャーは、それを取戻すよう依頼を受けた。だが、画家が失踪当時住んでいた家に今も暮らす夫人は、問題の絵はチャントリーのものではないと言う。夫人が否定した絵が、何故チャントリーの作品と言われているのか?それとも、彼は今もどこかで絵を描きつづけているのか?事件を追い続けるアーチャーの前にやがて浮かび上がってきたのは、過去の殺人事件と画家をめぐる錯綜した人間関係だった。巨匠最後のハードボイルド長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タナー
23
ロス・マクドナルドは1983年 7月11日、67歳でその生涯に幕を降ろした。今作が描かれたのは、マクドナルドが迫りくる死を予感していたとも言われている1976年。リュウ・アーチャーが登場するシリーズの18作目にあたる。正統派ハードボイルドの系譜としてよく言われるのは、ハメット→チャンドラー、そしてこのR.マクドナルドではあるが、サム・スペード、フィリップ・マーロウ、その後のネオ・ハードボイルドの HEROとされる私立探偵スペンサーらと比べてみても、このリュウ・アーチャーという探偵はちょっと違う。2024/08/04
Tetchy
3
ロスマクの遺作とされる本作は一般に駄作だと云われるが、物語の軸が常に明確であったせいか私の評価は高い。確かに登場人物構成が二転三転、はたまた四転五転し、プロットが結局破綻していないのか判断が付きかねるが、やはり最後にアーチャーが犯人に呼びかける言葉は物語の終焉にダメを押す。さらにアーチャーが生まれ故郷に行き、今まで描かれたことのない結婚生活について触れるのもシリーズ最後の原点回帰の様相を呈している。何しろアーチャーが恋患いをするのだから面白い。2009/05/22
Jimmy
1
ロスマク最後の作品を読み終えてしまいました。ラストまでカッコよく、ねじれまくってくれていました。これがラストだと知っているからか、とてもしみじみとした作品に思えます。アメリカミステリをそんなに読んだわけでない私ですので怪しい評価ですが、ロスマクは圧倒的な個性だったと思います。アメリカの家庭の腐った部分、それは虚栄心、野心、名誉欲、体裁よりもやはり性欲がもたらす非倫理的振る舞いこそが悲劇を生む、とてもとてもそれをテーマに執拗に描いていたように思えます。おぞましいほど雄であり雌であるのだと。2016/04/03
shampoo
1
リュー・アーチャー最後の事件……かはわからないけれど、ロス・マクドナルド最後の事件。最後だと思うといろいろ感慨深い。僕の知ってるリューではなかったのでいろいろ面食らうところもあったけれど、それもこの小説の愛嬌だと思う。シリーズの終りとしては素晴らしい。2013/01/21
さしとおう
0
自己を見失ったほかの愚かな人々と同じように、フレッドも他人を助けたいという欲求にかられ、かえってその人を破滅させるかもしれないような心理療法をほどこしてやろうとしたのだ。おそらくそれをもっとも必要としているのは、彼自身であろうのに。 208pより2009/01/02