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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
483
本書の刊行は1963年。まぎれもない冷戦下であり、ベルリンには東西を分かつ壁が立ちはだかっていた。ちなみに東ドイツが壁を建設したのは、その2年前である。この壁がル・カレに本書を書かせることになったと言っても過言ではない。小説全体を貫流するのは「非情」の論理である。それは、その論理故にリーマスの属するイギリスの諜報機関も、また共産主義陣営をも共に相対化する。すなわち彼らは結局は同じなのだ。したがって、あのような物語の結末は必然であった。小説は高いリアリティを持って我々に迫るが、空虚感の裏側に愛がほの見える。2016/08/23
遥かなる想い
240
東西が対立した冷戦の時代、 ベルリンを背景に、 リーマスというスパイ だった男の 周辺に蠢く策謀を描く。 全編に潜む不気味な、 冷ややかな空気が怖い。 主人公リーマスの存在感と ジリジリと続く神経戦が 物語に緊張感を与える。 誰がどちら側なのかが わからないスパイ小説の 醍醐味を味わいながら、 話は進む…そして宿敵 ムントの査問会…ムントが 謀った残忍なトリックとは 何だったのか…そして、 リーマスとリズはどうなるのか…最後はため息で 終わる、そんな物語だった。2015/09/06
absinthe
201
衝撃のどんでん返しはあるが、奇をてらったものではない。スパイに確かなものは何もないのだと思い知らせるために用意されており、周到に意図されたものだ。社会主義は、その目的のためには個人の犠牲が必要なのだと教えており、そういう教義を民衆に強制する社会主義を倒すためにこそ、民主国家のスパイ組織があるのであって、そしてその目的のためには個人の犠牲が必要なのだ……というどうしようもない矛盾。こういうテーマを選んだら、楽しく読める作品にはなりえない。重厚で深い味わい。 2015/10/11
Tetchy
197
これまでジェイムズ・ボンドのようなスーパーヒーロー然としたスパイ小説がまかり通っていた時代に秘密兵器や美女が登場しない、実にリアルで泥臭く人間らしいスパイを描いた歴史的名作。主人公リーマスを通じて知らされる諜報活動の内容と特殊な思考は作者自身が英国情報部の人間だっただけにリアリティがある。スパイ小説を読むことは歴史を学ぶことに実は似ている。学校の授業や教科書では語られなかった歴史の暗部を覗くと云う意味で。最後に至って題名にある寒い国の真の意味が解る。彼が帰ってきた“寒い国”の意味をぜひとも確認してほしい。2022/07/31
Panzer Leader
86
[第100回海外作品読書会]「スパイたちの遺産」を読む前に、読んだ事のある人も是非再読すべきとのアドバイスに従って三十数年ぶりの再読。ラストシーン以外は憶えていないのでドキドキしながら読み進めれば、なんと至福なることか。時代を超越した名作とはまさに本書の事なり。驚くのはル・カレの最新の著作でも見られる「西洋自由社会・共産主義国家の区別なくその主義・利益のために個人を犠牲にする思想こそが危険である」というテーマが本書で顕著に語られていること。 思えばこれを読んでル・カレやスパイ小説にはまった頃を思い出した。2017/12/27