出版社内容情報
内容説明
マルクスとエンゲルスの出逢いを阻止することで共産主義の消滅を企むCIAを描いた歴史改変SFの表題作をはじめ、零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる青年の感動譚「ひとすじの光」、音楽を通貨とする小さな島の伝説「ムジカ・ムンダーナ」など6篇を収録。圧倒的な筆致により日本SFと世界文学を接続する著者初の短篇集。第162回直木賞候補作。
著者等紹介
小川哲[オガワサトシ]
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に第3回ハヤカワSFコンテスト“大賞”を『ユートロニカのこちら側』で受賞し、デビュー。2017年に発表した第2長篇である『ゲームの王国』(以上ハヤカワ文庫JA)が第39回吉川英治文学新人賞最終候補となり、その後、第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
137
小川さんの4冊目の本です。短編集で6つの作品が収められていて、「ゲームの王国」よりもはるかに楽しめました。最初の「魔術師」「ひとすじの光」「嘘と正典」が特に印象に残りました。「魔術師」はとくに魔術師とその娘の物語で現実では解決しないようなところもあったりしてそれがSF的なのと文章の扱い方がうまい感じが残りました。「ひとすじの光」は父親の残した馬の話から競馬の歴史のような感じです。表題作はこれこそSFといった感じでマルクスやエンゲルスが出てきます。楽しめました。2023/10/23
stobe1904
81
【小川哲短編集】過去と現在の時空をテーマとした短編6篇から構成されている。テイストはSFやミステリなど特定のジャンルにとらわれずバラエティに富んでいるが、全体を通じて感じたことは先が読めない抜群に面白い小説だということだった。冷戦時代のエスピオナージ風の表題作『嘘と正典』が秀逸。これは直木賞受賞作の『地図と拳』も読まねばと再認識。★★★★★2023/12/27
ひさか
74
SFマガジン2018年4月号魔術師、6月号ひとすじの光、12月号時の扉、2019年6月号ムジカ・ムンダーナ、Pen2017年11月最後の不良、書き下ろし嘘と正典、の6つの短編を2019年9月早川書房刊。2022年7月ハヤカワJA文庫化。魔術師で語られる、トリックかタイムマシンかという二者択一の真相に迫る展開が秀逸。嘘と正典に出てくる時空間通信にまつわる世界構築のアイデアと展開が楽しい。2023/01/27
Kanonlicht
74
SF作家と位置付けられながらも、ジャンルに縛られない著者の作風は、この短編集でも健在。あえて共通するテーマを探すなら、不可逆的な過去(常識では当然なのだけど、SFにおいてその前提は覆されがち)、父と子、人生を捧げる、といったところ。世界の歴史上の転換点を舞台にマジックリアリズムが展開される表題作は、前作『ゲームの王国』を彷彿させる著者の真骨頂。受賞は逃したけど、直木賞候補に推されたのも納得2022/07/12
33 kouch
59
ひとすじの光/思わずひとすじを応援してしまう。優生学の悲しい顛末。レース中どの馬もいつも死に怯えているのかと思うと可哀想で競馬が見れなくなる。 嘘と正典/未来のKGBが過去に伝えるメッセージはただひとつ「共産主義は失敗だった。今すぐにやめろ」。なんともリアル。そして死よりも恐ろしい拷問。苦痛が長引くだけでなく、自白により他人も巻込む。「いつでも死ぬことが出来ればもう少し勇敢に動けるかもしれない」…と自殺カプセルを求めるシーンが印象的。今話題のロシア。ユニークな国だけど…目標達成のための手段はいつも怖い。2023/08/01