出版社内容情報
惑星美縟の巨大埋蔵楽器が五百年ぶりに奏でる秘曲・零號琴。大假面劇上演の夜、その音が暴く美縟の真実とは? 傑作ついに文庫化
内容説明
大假面劇に向け再建が進む美玉鐘の演奏を任されたトロムボノク、劇作家ワンダにより主役に抜擢されたシェリュバンは、徐蕨に“美縟のサーガ”の成り立ちに迫っていく。〓鷺(みさぎ)、菜綵、美縟芸能の目付け役“班団”、そして大富豪パウル―。仕組まれた運命とそれぞれの思惑が絡み合いやがて迎えた上演の夜、秘曲“零號琴”が暴く惑星美縟の真実とは?現実と虚構のはざまで物語を希うヒトの想像力を徹底的に描ききった傑作。
著者等紹介
飛浩隆[トビヒロタカ]
1960年、島根県生まれ。島根大学卒。1981年、短篇「ポリフォニック・イリュージョン」で第1回三省堂SFストーリーコンテストに入選、「SFマガジン」に掲載され、デビュー。83年から92年まで同誌に短篇10篇を発表。10年の沈黙ののち、2002年、長篇『グラン・ヴァカンス 廃園の天使1』を発表、脚光を浴びる。2005年、短篇集『象られた力』で第26回日本SF大賞を受賞。2007年、短篇集『ラギッド・ガール 廃園の天使2』で第6回センス・オブ・ジェンダー賞を受賞(以上、早川書房刊)。2018年、短篇集『自生の夢』(河出書房新社)で第38回日本SF大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Shun
27
美縟の隠れた歴史が明かされる大仮面劇の幕が上がる。巨大楽器の演奏という大役を受けたトロムボノクに加え相棒シェリュバンもまさかの役割が与えられ、各々の目的や野望が混然一体となった仮面劇は壮大でサプライズてんこ盛りの一大エンターテインメントであった。伝統の<美縟サーガ>に稀代の劇作家が仕込む要素が俗っぽさを感じさせるが、これはこれで温故知新とも言え見事な新旧融合、そして二度と観られない最高のgigでした。また本作に込められた哲学を解釈すれば硬派になるが、この演劇場面だけは見事に娯楽に振り切った爽快さがあった。2021/09/09
ふじさん
24
【上下巻併せての感想】「SFマガジン」連載。第五十回星雲賞日本長編部門受賞作。著者は初読みながら、これは人生史に刻まれ得る傑作中の傑作だった。何層ものレイヤーが重ねられた物語は何処をどう切り取っても一級品。中盤までの主旋律を務める創作者と創作物を巡る鬩ぎ合いからして強く惹き込まれた。伝統や定説、巨大なサーガに個人の独創が立ち向かい得るのか。異端は全体を動かし得るのか。例えば、偉人の美少女化コンテンツは単なる悪ふざけなのか、それとも歴史への挑戦なのか。アイドル声優、二次創作、Vtuber、2.5次元舞台、→2022/04/09
シキモリ
24
これだけ壮大なスケールの物語を紡ぐとなると、著者が寡作な作家である理由はよく分かる。第四部以降は付いて行くのが困難なほど怒涛の展開が続くが、終盤に差し掛かるに連れ、段々と興を削がれてしまった。解説に依ると、今作は日本SF全般と所謂オタク文化に対する二次創作的な作品であるようだが、パロディやオマージュの元ネタにピンと来ない私は第五部のごった煮感を素直に楽しめず、物語の筋道も結局のところ一本道なので、派手な作風の割に退屈な作品だった。勿論、このイマジネーションの洪水が魅力的なことは紛れもない事実なのだけれど。2022/03/11
hide
23
読み進める手が止まらない。ここでも文字が映像となり音楽となり再生され続ける。何故だろう?何だか懐かしさすら感じる。そうか、この物語は想像力のうえに立っているんだ。観たことも聞いたこともない。そんなことは無かった。思い出しただけだったんだ。楔は解かれ、物語の最終回は開放された。新たな物語の始まり。その先で明かされた真実。まさしく物語を希うヒトの想像力を徹底的に描ききった作品。2021/11/13
活字スキー
18
【それは日本SFの呪いか、それとも希望か】再建された〈美玉鐘〉を用いて、いよいよ美しくも縟わしい大假面劇が始まる。や、凄すぎてこんなんまともに感想書かれへんて。情報量多すぎ。『ゲームウォーズ』のように片っ端からネタを拾ってゆくだけでも楽しいし、情報の多さと絡ませ方に圧倒される『屍者の帝国』のような感覚もありつつ、日本SFのグラウンド・ゼロから「最終回の向こう」へと飛翔する超ド級エンターテインメント。繰り返される物語。繰り返されてこその物語。ヒトの想像力の限界まで──。2021/11/11