内容説明
「わたしが目を覚まさないように気をつけて」隣室に棲む土気色の肌の女は言った。指の付け根で目を擦りながら―この世界すべてを夢見ているという女の恐怖を描いた表題作、物理的に実行不可能な密室殺人を解明する驚天動地の推理劇「超限探偵Σ」、無数の算盤計算によって構築された仮想世界の陥穽「予め決定されている明日」ほか、冷徹な論理と呪われた奇想が時空間に仕掛ける邪悪な7つの罠。文庫オリジナル作品集。
著者等紹介
小林泰三[コバヤシヤスミ]
1962年京都府生まれ。大阪大学基礎工学部卒。1995年、「玩具修理者」が第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞してデビュー。以後『人獣細工』『肉食屋敷』などの作品集で、緻密な論理とグロテスクなイメージを特徴とするSF・ホラー短篇の名手としての評価を確立した。2001年の長篇『AΩ』で日本SF大賞候補、2002年の作品集『海を見る人』が「ベストSF2002」国内篇第3位を獲得
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感想・レビュー
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hiace9000
115
狂気か正気か…、圧倒的論理と奇妙で不思議なる倒錯と困惑の世界に読み手を投げ込み、易々と味わいを表現することすら拒む後味、これぞ小林泰三という作家が生涯かけて築いた偉業と呼べる。ホラー、ミステリ、SFの融合する本編七編、そこにSFレビュアー・冬樹蛉氏が解説を。読前・読後と解説を拝したのはこれが初めて。本編の小林ワールドも素晴らしいが、紙幅7頁ほどの至極の解説も一級。それを前にするとレビューの言葉すら失う。執筆当時、小林さんは存命中。不世出の作家既に亡き現在ならば、冬樹氏ははたしてどんな解説を寄せるだろう。2025/05/25
★YUKA★
45
表題作の『目を擦る女』、『刻印』が面白かった。他の5編はちょっと読みづらく、苦手でした。ハードSFというジャンルなのですね(゜゜)2016/12/18
藤月はな(灯れ松明の火)
45
「見晴らしのいい密室」という改題と短編の並び替えで再版された作品ですが笹井一個さんのイラストが好きなのでこの版で読了。表題作はくるりくるりと廻る妄想か現実か分からなくなる所に眩惑。人類のために自らの幸せを半ば、諦めて起きずに夢を見続ける女は不吉な予言は当たるが信じて貰えないカッサンドラのよう。「刻印」は蚊型宇宙人とのラヴストーリー且つとあることへの証明というとんでもない発想で度肝を抜かれました。「予め予定されている世界」は厳格的決定論の変形で「脳喰い」がこの短篇集のテーマを濃縮しているように思えます。2013/07/11
koma-inu
39
ファンタジー、SF、小ネタミステリなど、色々含んだ7短編集。ホラー色はやや薄め。まず独創的なタイトルと表紙が目をひきます。イチオシは「刻印」。エイリアンが侵入した日本の話。主人公はエイリアンである「等身大の蚊」と出会い、やがて恋に落ちる・・。という、あまりにもバカげた展開。「僕はトイレを開けた。トイレの中に等身大の蚊がいた。僕はすぐさまドアを閉じた。」というシュールな出会いが素晴らしい。オチもなかなか笑える内容でホッとします。2024/05/05
みや
39
SF寄りのホラー短編8作収録。この著者が生み出す「歪んだ人」がいつも大好き。今回もゾッとする薄気味悪さが最高に心地よかった。自分はずっと眠って夢を見ていると言う女の隣家に引っ越した表題作と、算盤の計算によって構築された仮想世界で女性が電子計算機で計算をする『予め決定されている明日』は特に女性の静かな狂気が巧みに描かれている。面白すぎて読みながらニヤニヤした。トイレの中に等身大の蚊がいる『刻印』も好き。こんなにも純粋な人外との恋愛なのに、ビジュアルを想像すると吐き気を催す。『脳喰い』のグロエイリアンも良い。2020/06/27
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