内容説明
石に鳥の絵を描く不思議な男に河原で出会った青年は、微睡むうち鳥と男たちについての六つの夢を見る―。絶滅する鳥たち、少年のパチンコ名人と中年男の密猟の冒険、脱獄囚を追っての山中のマンハント、人と鳥と亀との漂流譚、デコイと少年の友情などを。ブラッドベリの『刺青の男』にヒントをえた、ハードボイルドと幻想が交差する異色作品集。“まれに見る美しさを持った小説”と絶賛された第四回山本周五郎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
398
稲見一良は初読。6話の短篇と、それを繋いで長編化するプロローグ、モノローグ、エピローグとからなる。いずれも鳥をめぐる物語だ。しかも、エンターテインメントとしては第一級の。もっとも、時としてやり過ぎてしまったり(例えば「密漁志願」で、主人公の語り手が4人乗りのボートを有していたことなど)もするのだが。物語を読む楽しみに満ちた小説群だ。鳥を軸に据えた構成も成功しているだろう。鳥に対する造詣も深く、そのことが小説に奥行きを与えていると言える。しかも、それは作家の個性として十分に機能している実に稀有な一書だ。2017/01/18
散文の詞
183
石に鳥の絵を描く男との出会いが何にかの発展をするのかと思ったら、そのまま、掌編が始まって、鳥との関わりが描かれます。 プロローグの石の話には、これから始まるのは鳥に関する話ですよって意味なのかと思いながら読み進めると、途中に、「モノローグ」が挟まれて、??って感じで、最後まで読んで、やっと、全体の意味がわかりました。 それぞれの掌編には、孤独な人間が登場しますが、鳥との関わりで自分の気持に気づいていく感じが、これまでに無い感じにさせられます。 面白かったですが、不思議な感じの小説でした。 2022/08/12
おしゃべりメガネ
179
やっと読めました。積んでかれこれ12年経っての読了となり、ある意味感無量です。ジャンルは様々な短編集で、とにかく文章が流れるようにキレイで、読み進めながら思わずうっとりしてしまいます。どの話も'野鳥'が登場するので、そちらに興味のある方はもっともっと楽しめるのかなと。やはり個人的には脱走した囚人を追いかける話に惹き付けられてしまいました。あとはスリングショット名人な少年との密猟話も。本作はきっと何度も何度も繰り返し読んで、読むたびに新たな発見に巡り会える作品なんだろうなと。更に年齢を重ねてまた読みたい。2021/01/16
seacalf
139
大当たり。高評価揃いの感想だったのでしばらく寝かせておいたが、予想以上に図抜けていて大満足。共通なのは鳥をモチーフにしてるだけで、がらりと違うジャンルが並ぶ短編集なのだが、第三話『密猟志願』から六話『デコイとブンタ』までどれもこれも面白いのなんの。「まれに見る美しさを持った小説」や「大人のメルヘン」と評されているが、言い得て妙。少々時代がかった硬質な印象だが、かなり読ませる。ハードボイルド調に書かれた方が、優しさが際立つ。魅了される至福の読書だった。2017/08/12
あも
116
【バンビ課題本】真に美しい風景を前に、人は涙するという。そんな経験は残念ながらないが、本書はそれが嘘ではないと教えてくれる。藤沢周平の選評にあるとおり、稀に見る美しさを持った小説。リョコウバトと出会ったアメリカの青年、密猟者を気取る孤独な男性と少年の不思議な交流…狩りと人を通し、自然への思慕が溢れる物語達。収められた6編全てから、目の前いっぱいに広がる水面にキラキラと反射する陽光に目を細め、胸が締め付けられるような感興を覚えた。自然の中の人間、自然に対する人間。鳥たちへの愛惜の情と共に満足して頁を閉じる。2018/04/23