出版社内容情報
揚州虐殺のなかを生きた遊女を描いた表題作、満州で巨大熊を捕獲しようとした探検隊が出会った悪夢「烏蘇里羆(ウスリーひぐま)」など全7篇を収録
内容説明
住民の皆殺し命令が下され、揚州は地獄へ変貌した。意地悪なくせに小鳥にはひどく優しい不思議な遊女の緑鶸は、彼女の纏足された足を世話する少女・雀を連れ、美貌と知性を武器に生き抜こうとする…。運命に立ち向かう遊女の幻想譚である表題作、生き生きと動く投射映像“シミュラクラ”の発明者の男と娘の相克をめぐる星雲賞受賞作「シミュラクラ」など第二短篇集の単行本版『母の記憶に』から、7篇を収録した傑作集。
著者等紹介
リュウ,ケン[リュウ,ケン] [Liu,Ken]
1976年、中華人民共和国甘粛省生まれ。弁護士、プログラマーとしての顔も持つ。2002年、短篇「カルタゴの薔薇」でデビュー。2011年に発表した短篇「紙の動物園」で、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝く。その後も精力的に短篇を発表するかたわら、中国SFの翻訳も積極的におこなっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふう
88
ケン・リュウ氏の描く日本や中国の独特な世界が好きです。遠い時代から吹き続けてきた風のようで、淡々と流れる音楽のようで、哀しみの方が多く懐かしく…。表題作は、非情で残忍な歴史に翻弄された遊女の物語。その強さと愛と、草を結ぶと信じて生きていく(死んでいく)人間の切なさに涙がこみ上げてきました。「万味調和」はヘニング・マンケルの「北京から来た男」と重なる部分がありました。アメリカで生きていくことを決意した中国人ローガンの語る物語や言葉が深い味わいを持って心に沁みてきます。ただ、氏の描く科学の世界は苦手です。2019/07/23
ざるこ
51
7篇。ケン・リュウ傑作集4作目だが1番好き。SF要素は少なく歴史を絡めた国色が強い。まず日本人が登場する「烏蘇里羆」巨大な羆VS機械の構図に興奮させられ、あげく驚きのファンタジー展開。そう来たか!と思わず唸ってしまう。揚州で起こる大虐殺から逃れる遊女たち「草を結びて環を銜えん」妖怪の猿の王が心に潜む「訴訟師と猿の王」アメリカで働く中国人が少女に聴かせる三国志関羽の物語「万味調和」情緒溢れるこの3作が最高に好き。苛酷な運命に立ち向かい犠牲を厭わず道を切り拓く。気高く生きる姿が鮮明にイメージされ胸が熱くなる。2022/07/13
hanchyan@ふむ……いちりある
32
親を思い子を思う。友を思い同胞を思う。過去を見据え未来を夢見て、今、現実と隣り合った現実を思う。そんなような、名もなき人々の無意識的プレゼンスの糸が縒り合わせられて、物語は産まれ、我々ひとりひとりを励ます。もちろん自分個人は、鉄の馬で熊と戦ったり何百年も前の中国やアイダホにいたことは、一切無い。当たり前だぞ(笑)。けども、本書の作品世界はどれも、「なんか昔こんなことあった気がする」のね。集合的無意識に訴えかけるつーか。落涙せずに泣くような感覚。とてもとても面白かった。さすがに表題作が素晴らしい。2021/02/23
まめこ
31
★★★★★2023はケン・リュウ作品から。いいスタートきれました!どうしようもないほど人間臭い温かさに隠されたひやっと感が絶妙。逆かな、ひんやりの中の温かさ。これもある意味「万味調和」だね。中国移民がアメリカのコミュニティに馴染む苦労を関羽が取り持つ。アメリカに住む息子が中国の母親をリモート介護する「存在」。自己嫌悪と非難と言い訳と…これって誰の何のため?表題含め大満足◎2023/01/01
きょちょ
29
この作品集には感動するものが一つもなかったのは残念。 7作の内、表題作と「輸送年報~」、「訴訟師と猿の王」が好み。 ただ、表題作は言い方は悪いがケン・リュウでなくほかの作家でも描きそうな感じ。 人助けという同じ観点で言えば、「訴訟師~」の方が、ケン・リュウらしさを感じた。 「輸送年報~」は、言ってみればどうということのないSFかもしれないが、大きな輸送船をアメリカ人の旦那と中国人のカミさん二人で、喧嘩しながらも交代でやりくりしているところが、SF世界の中に一般的な生活臭が漂っていて微笑ましい。 ★★★2020/06/29