出版社内容情報
不治の病の母が娘のため選んだ行動をつづる表題作、娼婦の殺人犯を追う「レギュラー」など単行本版『母の記憶に』から9篇を収録
内容説明
不治の病を宣告された母―母はわたしを見守り、残された時間をともに過ごすためにある選択をする。それはとてつもなく残酷で、愛に満ちた決断だった…。母と娘のかけがえのない絆を描いた美しくも切ない表題作、肉体を捨てて意識をアップロードした家族を見送った人々を描く「残されし者」など、『紙の動物園』で読書界の話題を集めた作家が贈る、第二短篇集である単行本版『母の記憶に』から9篇を収録した傑作集。
著者等紹介
リュウ,ケン[リュウ,ケン] [Liu,Ken]
1976年、中華人民共和国甘粛省生まれ。弁護士、プログラマーとしての顔も持つ。2002年、短篇「カルタゴの薔薇」でデビュー。2011年に発表した短篇「紙の動物園」で、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝く。その後も精力的に短篇を発表するかたわら、中国SFの翻訳も積極的におこなっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふう
95
近いか遠いかはわからない未来の物語。AIが怖ろしいほどに進歩し、人の生命のあり方までも変えてしまう世界で、その世界に順応していく人々と、最期まで人の姿と心のままでいたいと考える人々の苦悩が描かれています。科学がたくさん登場しますが、情緒的でどこかノスタルジック。もの悲しさが心地よくさえありました。悲しみも後悔も人の心のありよう。老いも死も人の姿のありよう。そういったものを受け入れることが生きることではないでしょうか。どれもおもしろかったけど、とくに「カサンドラ」「レギュラー」がいい。強い女はすてきです。2019/09/09
ざるこ
48
9篇。著者はA.Iの進化や荒廃した遠未来の硬質さと家族や恋人との絆など複雑な心理の柔軟さを融合させた物語を描くのが巧い印象。不治の病の母が子供を見守る「母の記憶に」たった7頁で母親の深い愛情が感じ取れる。戦争で殺人を犯した父親が気を病み、そんな苦しみが軽減され、巻き添えの被害者が出ないよう標的を機械が選別する「ループの中で」が深い。被害者を減らす努力だけど、そもそも戦争なんて…とまさしく思考が無限ループに陥る。「レギュラー」は結末がなんとも微妙やけど感情を調整するチップや眼球カメラのアイテムが魅力的で◎。2022/07/10
『よ♪』
43
リアル感が見事なSF短編集。<母の記憶に>と<上流読者のための比較認知科学絵本>は共に"ウラシマ効果"話だが切り口が違って興味深い。<重荷は常に汝とともに>と<カサンドラ>は皮肉が効いててとってもスパイシー♪<ループのなかで>は"人の手を汚さなくてよい戦争"が題材。<状態変化>は不思議でアンニュイ。<パーフェクト・マッチ>は好み。スマホ・GAFA依存の行く末。<残されし者>は"シンギュラリティ"後の世界。<レギュラー>には驚いた。なんとサイコ・サスペンス!映画『羊たちの沈黙』『SE7EN』とか観てる感じ♪2022/06/04
hanchyan@つまりはそういうことだ
33
♪剣竜〜ツノ竜〜ヨロイ〜竜〜♪ というわけで。玉城ティナちゃんもオススメのケン・リュウの短編集。センスオブワンダーの使い方、物語の語り口、ともにバリエーション豊富で飽きさせず、9編9様の感慨に浸れて実にお得な感じ。「三体」が小松左京だとすると、こっちは筒井さんか。あるいは藤子・F先生の“少しフシギ”的な。とかなんとか。とてもとても面白かった。SFてよりかはもはやマジックリアリズムな「状態変化」の儚い情緒も素晴らしいが、ズバリ、ハードボイルド・ミーツ・SFの「レギュラー」がマイベスト。すっげえカッコいいぞ!2021/01/31
まめこ
28
★★★★★すごいよかった~!肉体を破棄しデジタルに生きるシンギュラリティ以後の世界。人類は永遠の生を手にし、地球は人類から開放される。デジタル世界へのアップロードは生なのか死なのか、親と子それぞれの思い「残されし者」。命が物に宿るマジックリアリズム、氷に宿った命で生きるリナの恋「状態変化」。Sマークのあのヒーローに異なるベクトルの正義で敵対する「カサンドラ」は悪なのか。唸りっぱなしの9篇!2022/06/11