内容説明
古代ローマ人の生まれ変わりのSF作家がたどる奇妙な人生と、未来を見られる摩訶不思議な目をめぐる物語を描く表題作『シビュラの目』をはじめ、ホワイトハウスに設置されたコンピュータが大統領をつとめる未来の合衆国で、思いがけず大統領の待機員に任命された男を軽妙に描く『待機員』、本邦初訳の『聖なる争い』と『カンタータ百四十番』、大実業家の死後に起こる異様な出来事を描く『宇宙の死者』など全六篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
57
全編初読。短編間に繋がりのあるものが多い。どの短編に関しても、なんの説明もなく造語が押し寄せてきて特に序盤に躓きかける感じが良くも悪くもディックの作品を読んでいることを自覚させる。「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」=完全な続きもの。世界観は偶然世界に近い。個人的には後者のほうが好みだが、ユニセファロンDの設定はもう少しなにかの形で活かしてほしかったようにも思う。「カンタータ百四十番」=上記と世界観の一部を共有している。中編サイズで登場人物も多いが物語は比較的透徹したものになっていて、それほどわか2019/05/29
藤月はな(灯れ松明の火)
52
『宇宙の死者』はコズミック・ホラーに多数化した自我との同調が怖かった分、ジョニーの決断が切なかったです。『聖なる争い』は便利に思えた機能によって真綿で首を絞められたり、だんだんと熱くなるぬるま湯に浸かって煮え殺されるような状況に陥っていく描写とそれに気づいても手放せない状態になっているという事実に戦慄せざるを得ない。特にその事実の象徴である小物はガムという一見、ポピュラーで微笑ましいものなのが猶更、怖さを倍増させます。表題作は計測出来得る果てしない時に夢という希望を見出せたのが良かったです。2014/08/18
ちぃ
26
ディックワールド全開でとても面白かった。半生の技術が浸透した世界でドラッグにより人格崩壊した孫娘と陰謀がどこまでまともなんだかよくわからない感じで絡んでゆく『宇宙の死者』がとても「らしく」てお気に入り。今なお実現しない技術と、時代遅れ感のある未来道具の混在、この時代の日本やソ連のもつミステリアスさ、人種に対する考えとかがまた、なんとも言えない退廃感を醸し出してていいかんじ。2022/10/04
kochi
22
AIが政治を司る未来のアメリカ。あまりにも優秀なため、不測事態に備えた待機員は、形式的で、能力とは関係なしに選ばれるものに。ところが、外宇宙からのエイリアン侵入によりAIが破壊されたとき、待機員フィッシャーの暴走が始まる(待機員)。自ら考えているのだから当たり前だが、設定の本質的な欠陥に迫り、起こるべくして起こる対立を見事に、スリリングに描くディックの短編集。彼の短編、こんなにおもしろかったっけ?ディックの想定では、2080年に初めての黒人大統領の誕生か?となっているので、現実の方が進んでいるぞf^_^;2015/10/12
絹恵
16
恩恵を受ける者と弾かれた者、免れる者、その目に見つめられた者は視野を限定されたような行動となり、夢を見ることを知らない予測の範疇の住人となります。全てを知り尽くしたシビュラは夢を見ることは出来ないだろう、けれど夢は眠っていても醒めていても見ることが出来る、その目を捨ててでも見たい夢がある。何を以て幸せを見るのだろうか?面白かったです。2013/12/08