内容説明
はるかな昔、うるわしき月が梯子を昇って行けるほど近くにあった時代の悲しい恋の物語「月の距離」、形というものが存在しない原初の宇宙で、銀河の回転周期を計ろうと、見えないしるしをつけたことから起こるスラップスティック・コメディ「宇宙にしるしを」、ビッグバン以前、誰もかれもが1点に集まっていた古き良き時代に思いをはせる「だだ一点に」など、現代イタリア文学の鬼才が、宇宙創世以来のすべての出来事の生き証人Qfwfqじいさんを語り部に、持ち前の奇抜なアイデアと自由奔法なイマジネーションで描いた、ユーモアとペーソスあふれる12篇の宇宙奇譚を結集!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
111
宇宙の全物質がただの一点に集中していたはるか昔の時代に、「わしはそこにおったのじゃ」と主張するQfwfqじいさんが主人公の物語。最高に面白くて、読者の想像力を極限まで刺激する。カルヴィーノは、子供の無垢な想像力を大人になるまで持ち続けた稀有な作家だ。宇宙の果てはどこにあるのだろうと、目を輝かせて真剣に考える子供が、カルヴィーノの中に住んでいるのだろう。透明なファンタジーとノンセンスに浸されたこの物語を読むのは、本当に素晴らしい体験だ。子供の時のように、もう一度この宇宙全体と友達になれる。2017/06/04
ミツ
17
文学の魔術師ことイタロ・カルヴィーノによるユーモアSF寓話集。宇宙開闢以前から存在するQfwfq老人によるファンタスティックで荒唐無稽な与太話は、時に馬鹿馬鹿しく笑いを誘い、時にロマンティックな悲恋となり、既に失われた過去への哀悼を滲ませる。そして光速を超えて、時間も空間も存在すらもブッ飛ばしつつ、「そうじゃそうじゃ、そのときわしはな…」と語り出す老人がなんだかとても愛おしく思えてくるのである。特に良かったのは月が手が届くくらい近くにあったころ「月の距離」交わらず平行に墜落してゆく三角関係「空間の形」2016/01/11
YO)))
13
カルヴィーノのトンデモイマジネイティブな宇宙小話集。Qfwfqじいさんなるクトゥルフみたいな名前の老人が、宇宙創成以来のあれこれについて、一沫の真理が含まれていそうに思えなくもない与太話を語りまくる。ともすれば女性(←メタファなのか擬人化なのか分からないが)との色恋沙汰に話が及びがちなのは、カルヴィーノらしいと言えばいいのかイタリアらしいと言えばいいのか。巻頭「月の距離」は、月がまだ海上の船から"落下"できる距離にあった頃のお話。ロマンチックだしどことなく「一千一秒物語」を思わせる雰囲気があって好きだ。 2014/06/24
猫丸
12
再読。現在の書影はこんな感じなのか? ISBN検索の結果だからここでOKなんだろうけれど、なんだか変だなあ。書名もないし。ま、いいや。手元にあるのは昭和61年発行、木嶋俊氏によるアメコミっぽいイラストの表紙である。宇宙を背景にQfwfqじいさんがニッコリと笑う構図。スケールの大きなホラ話であるから、まさしくSFである。子供のころ読んだミュンヒハウゼン男爵の活躍を宇宙規模の時空に拡大したような。12のエピソードに分かれ「わしはそこにいた」と主張する。人間を超える存在全般に人間的悲哀を読み込むような話たちだ。2020/10/14
春ドーナツ
7
1980年代初頭までに判明した宇宙物理学の各々の成果を基にして思考実験を行う。それだけでは小説にならない。そこで強力な擬人化(「無」も含めてあらゆるもの(ないしは、ものではないもの)に適用される)と寓話的文体(時間の制約から解放される)と「恋愛」の要素を付随させてドラマを盛り込む。そうすることによって、イタロさんはまたしても「こんな小説読んだことない!」という小説を我々にプレゼントしてくれるのだ。2016/12/01