出版社内容情報
吸血鬼は「悪」なのか?
映画、漫画、アニメなど多数の二次創作を通じて、「吸血鬼もの」の原点として世界中で知られている小説『ドラキュラ』。ゴシックの怪奇小説として受容されているが、実は19世紀末の人々が直面していた社会問題や文化現象を、作者ブラム・ストーカーが批評的に見つめることで創り上げた作品だった。進化論の隆盛の一方での「退化」への恐怖が、さまざまな面で規範から外れてしまうマイノリティの存在を排除・疎外する――。そんな社会の風潮に、スリルたっぷりのエンタメ作品という形をとりつつ問いを投げかけた本書は、差別や分断の進むいまこそ読むべき一冊。「ケア」という現代的な視点を援用しながら、作者の意図を丁寧にほどいていく。
【目次】
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
GELC
12
ドラキュラというキャラクターはホラー役の定番であるが、原点である本書が、小説として超一級であることが分かった。文章だけでここまで恐怖感を植え付けてくる作者の手腕が素晴らしい。また、単なる悪役を倒すストーリーに見せかけて、多重的な読み方ができる品でもある。解説者のあわい、マイノリティー、女性解放などの近年注目される概念で読み解く姿勢は、少し寄せすぎな感じも正直ある。しかし、そのような読み方も許容できる、奥深さを備えている。2025/10/09
Michio Arai
4
ゴシック小説というジャンルらしい。18世紀の女性観というジェンダー視点、それにイングランドに抑圧されるアイルランドという国情など小説の登場人物やその出身国・地域にも意味を持って語られているとか。 単純に恐怖小説として読むのも良いが、「新しい女」「都市と辺境部」など当時の市民革命後の時代背景や、「ケア」の視点を念頭に深読みするとさらに興味深く読めるというのは、この解説がないとそこまで深く読めないと思った。 2025/10/16
mawaji
2
男女、善悪のような二項対立を乗り越えてゴシックホラーの「ドラキュラ」を今どのように読み解くのかをケアの観点から指南する本書、新しい気づきがいっぱいで興味深く読みました。その時代の弱者が描かれるゴシック小説はDEIを批判するトランプ大統領のやり口が見え隠れしたりして、自国ファーストと称して他者を排除するxenophobiaの思想など、今の時代との親和性を強く感じました。やはり優れた物語は時代を超えて普遍性があるのですね。寄ってたかって盛り上がって杭打ちするpenetrationの暗喩、フムフムといった感じ。2025/10/09
rockwave1873
2
ドラキュラに最初に接したのは、小さい時にテレビで、1958年製作の『吸血鬼ドラキュラ」を凄く怖い想いをしながら見た事で、それ以降も吸血鬼(バンパイア)は色んな媒体で目にして来たが、ブラム・ストーカーのドラキュラに触れるのは、この『100分で名著』が初めて。解説者である小川公代教授は、ロマン主義文学・医学史を専門にしているだけあって、ドラキュラに対する私の中の既成観念とは全く違った切り口で読み解いてくれていて、面白かったし、小説でも古典作品となると学術的に色んな読み解き方があるのだなと感じた。2025/09/30
マチナカ書房
1
めっぽう面白かった。小川さんの他の著作も読んでみたくなった。もちろん、ストーカーの『ドラキュラ』も読みたい。2025/10/22




