出版社内容情報
現実は、ディストピア小説よりも恐怖なり!?
狂信的な全体主義国家に変貌した近未来のアメリカを舞台に、女性の性と生殖に関わる権利がことごとく?奪された恐怖社会を描いた小説『侍女の物語』(1985)。トランプ政権の成立以降、アメリカ、そして世界中で強まる右傾化や全体主義的傾向を予見した書物として、改めて注目を集めている。そして社会の不安が高まるなか、15年後の未来を描いた『誓願』(2019)が刊行。第二次トランプ政権が始まり、フィクションを越えるような事態が現実に起こりつつある状況下で、この鋭いディストピア小説を読み解き、自由とは何か、抑圧的な体制や政治手法に抗するにはどうすればよいのかなど、「今そこにある危機」について思索する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おたま
66
6月のNHK「100分de名著」が「アトウッド『侍女の物語』『誓願』」だったので、番組の視聴と同時並行で読んでいった。両作ともにしばらく前に読了しているため、その全体を俯瞰的に振り返ることができ深く理解するのに役立った。解説を『誓願』の翻訳者である鴻巣友季子さんが行っており、細かな点にもよく眼のゆきとどいた、丁寧な解説だった。特に、ディストピアとユートピアとの関わりについて、アトウッドが両方の小説で用いた語りの戦略について、時代への予言性というものがよく分かった。アトウッドの他の作品も読みたくなった。2025/06/26
もえ
25
番組を録画して『侍女の物語』と『誓願』を読了後に視聴。『誓願』の翻訳者である鴻巣友季子さんは、作者のマーガレット・アトウッドのインタビューもしたことがある方。アトウッド独特のユーモアや鋭い視点を理解しており、二冊の副読本としても優れている。番組の中で村田沙耶香さんの言葉も紹介されていた。彼女は年上の女性から「あなたは安産型ね」と言われる度に「産む性として見張られている」と違和感を覚えたそうだ。過去に「女性は産む機械」と失言した大臣もいたが、女性の持つ違和感を村田沙耶香さんやアトウッドの作品は体現している。2025/07/07
かふ
22
『侍女の物語』がオーウェル『1984』の批評から書かれたこと。それはオーウェル『1984』だけでく、世に言う「ファム・ファタル」文学が男の視線から悪女=聖女を描いているように『1984』に登場するジュリアはアホ女のように描かれているという。それをジュリアの視点から物語を語って『侍女の物語』となっていくのだが、ダークファンタジーとして描いたものがディストピア文学になっていくのは、それが過去の物語ではなく未来の物語として読まれるからだった。ユートピア(ファンタジー)がディストピア世界になる構造を明らかにする。2025/06/18
石橋陽子
18
80年代には受精した卵はその瞬間に人格を持つという考えが打ち出される。アメリカでは、不妊治療をする女性を単なる支給提供者や孵卵器のように考える風潮があった。アトウッドはバックラッシュのありようや、モラルマジョリティという保守派のキリスト教組織が勢力を伸ばしていることを感じ取り『侍女の物語』を書き出したそう。近未来を予言する小説として評価されており、本編を読んでみようと思う。ユートピアが行き過ぎるとこうなるかもしれないという世界。アトウッドによればそれがディストピア。2025/06/10
GELC
13
解説者の方は、「ユートピア思想が行き過ぎるとディストピアに変貌する」と主張されているが、個人的にはちょっと疑問である。そういう面もあるのかもしれないが、特権階層が長きにわたって社会構造を維持しようという目的が根本的にあると思う。オーウェルをリスペクトした内容もあるようで少し気になるが、引用されている文面を見る限り、自分の趣味に合うか微妙な感じだったので、手に取ってみるべきか迷う。2025/06/15