出版社内容情報
現実は、ディストピア小説よりも恐怖なり!?
狂信的な全体主義国家に変貌した近未来のアメリカを舞台に、女性の性と生殖に関わる権利がことごとく?奪された恐怖社会を描いた小説『侍女の物語』(1985)。トランプ政権の成立以降、アメリカ、そして世界中で強まる右傾化や全体主義的傾向を予見した書物として、改めて注目を集めている。そして社会の不安が高まるなか、15年後の未来を描いた『誓願』(2019)が刊行。第二次トランプ政権が始まり、フィクションを越えるような事態が現実に起こりつつある状況下で、この鋭いディストピア小説を読み解き、自由とは何か、抑圧的な体制や政治手法に抗するにはどうすればよいのかなど、「今そこにある危機」について思索する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
17
『侍女の物語』がオーウェル『1984』の批評から書かれたこと。それはオーウェル『1984』だけでく、世に言う「ファム・ファタル」文学が男の視線から悪女=聖女を描いているように『1984』に登場するジュリアはアホ女のように描かれているという。それをジュリアの視点から物語を語って『侍女の物語』となっていくのだが、ダークファンタジーとして描いたものがディストピア文学になっていくのは、それが過去の物語ではなく未来の物語として読まれるからだった。ユートピア(ファンタジー)がディストピア世界になる構造を明らかにする。2025/06/18
石橋陽子
15
80年代には受精した卵はその瞬間に人格を持つという考えが打ち出される。アメリカでは、不妊治療をする女性を単なる支給提供者や孵卵器のように考える風潮があった。アトウッドはバックラッシュのありようや、モラルマジョリティという保守派のキリスト教組織が勢力を伸ばしていることを感じ取り『侍女の物語』を書き出したそう。近未来を予言する小説として評価されており、本編を読んでみようと思う。ユートピアが行き過ぎるとこうなるかもしれないという世界。アトウッドによればそれがディストピア。2025/06/10
GELC
12
解説者の方は、「ユートピア思想が行き過ぎるとディストピアに変貌する」と主張されているが、個人的にはちょっと疑問である。そういう面もあるのかもしれないが、特権階層が長きにわたって社会構造を維持しようという目的が根本的にあると思う。オーウェルをリスペクトした内容もあるようで少し気になるが、引用されている文面を見る限り、自分の趣味に合うか微妙な感じだったので、手に取ってみるべきか迷う。2025/06/15
die_Stimme
5
やはりキリスト教の思想や歴史を前提としてはじめて理解できる部分の多い作品だったので、今回のテキストをお供に2冊ともまた読みたくなった。しかし鴻巣さんの仕事の早さちょっと異常では?このテキストと番組出演もあるし、昨年末のキーガン『ほんのささやかなこと』の訳もあったし、先月〜今月でミリアム・テイヴズ『ウーマン・トーキング』、アトウッド『ペネロピアド』の訳が立て続けに出て、理解できないんだが…。そしてこの3冊はいずれも重要な訳業だと思うし、ぜんぶ積んでる😇2025/06/14
小倉あずき
3
【ディストピア洗脳三原則】 1.国民の婚姻・生殖・子育てへの介入と管理 2.知と言語(リテラシー)の抑制 3.文化・芸術・学術への弾圧 今、政府が積極的に支援している婚姻の奨励も、これ以上進めば「介入」になって行きかねないし、高校無償化による学力低下は知と言語の抑制になりかねないし、コロナ禍における我が国の文化・芸術・学術への無策さは抑圧なのでは?と思えてきてしまうから恐ろしい。どんな悲劇も最初は善意から始まるというが…もう足音が聞こえてき始めている?2025/06/03