出版社内容情報
民俗学者・宮本常一が、日本列島をすみずみまで歩き、人々から膨大な話を聞いて、そこにある生活意識や文化の奥深さを、多彩な叙述の手法で浮かび上がらせた『忘れられた日本人』。「庶民」が育んできた“小さな歴史”をひもとき、いまなお私たちのうちに息づく文化の基層をたどる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
47
著者による宮本の本は一般の読者にも手に取り易く、講談社現代新書のが薄く読み易い。本書はそれよりも一般に開かれている。神話的で大きな物語(柳田)に対して話者が具体的で多様な形式の小さな物語(宮本)と、全編にわたって柳田民俗学との比較がなされている。集合的な私ではなく、主語が大きくなく等身大で、アレゴリカルな教訓もないのが宮本の特徴だという。著者からすると宮本民俗学という看板も相応しくないと言うだろう。石牟礼道子との接点を紹介し、柳田よりも石牟礼による聞き書きの方が宮本の仕事に近いのではないかと提起している。2024/05/31
兵士O
45
ボク自身が他人に対して冷たい視点を持っているわけです。だから切り捨てる、現代の尺度で。こいつは使える、使えないとか、コミュ力ある、否とか。でも宮本さんとその著作で描かれる村の人は違う。土佐源氏などその典型です。わたりと女にしか生きてこなかった爺さんのことを宮本さんは温かな眼差しで描いている。ボクの通っているコミュニティでもボクの尺度に合わない人がいます。でもぽつりぽつりと語るその人の話を丹念に聞いていると、その人もこのコミュで居場所を作ろうとしているのが分かる。でもボクには受け入れる寛容さがないんだよな~2024/07/01
森林・米・畑
36
日本各地をカメラとノート片手に調査で歩き回り、貴重な聞き取り見聞の数々。取っつき易く面白い。歴史に名を残さない一般人の歴史として貴重だと思った。これからの困難な世の中を生きる上で、時代を遡って先人達(庶民)がどのように生きて来たかを知るのは有益だと思う。更に宮本常一氏を深掘りしたくなった。2025/01/20
まると
24
かつて夢中で読んだ大好きな本だけど「100分de名著」に登場するとは思わなかった。宮本先生が全国をフィールドワークした頃は、幕末から明治にかけて幼少期を過ごしたお年寄りがまだ生きていた頃。今でいう戦争体験者と同じで、彼らが存命中に記録に残したことの意義は大きい。近代化で失われていったものを問いかけ、無名の庶民の「小さな歴史」を紡いで近代化以前の既成概念を覆す試みは、網野善彦さんや渡辺京二さんの著書や思想にも通じるものがある。宮本先生の作品に石牟礼道子さんが寄せた解説もあるという。無性に読んでみたくなった。2024/07/20
どりーむとら 本を読むことでよりよく生きたい
23
自分が卒業論文で、黒瀬ダムができることによって故郷から移転した人の話を聞いて回ったことを思い出した。宮本常一さんのようにというのはおこがましいが、黒瀬ダムがつくられることによって故郷を去り、山間の集落から平地に降りてきた人々の話を聞いて回ったことがある。今から40年以上前の話である。宮本さんの本を参考にしながらその時に聞いた話を自分なりにまとめてみたいと感じた。2024/06/13