出版社内容情報
酒を酌み交わしながらの軽妙な対話に、民主主義の本質を読みとく
明治時代中期、藩閥政治への不満から民権運動が大きな盛り上がりを見せるなか、その理論的な支柱を作り出そうと奮闘した思想家・中江兆民。代表作『三酔人経綸問答』は民主主義の本質を問う名著だが、ユニークなのはその形式。三人の人物の酒を飲みながらの問答によって進んでいく。理想主義者の洋学紳士と覇権主義者の豪傑君、真っ向からぶつかる二人の議論に、現実主義者の南海先生が示した意外な答えとは――
学生時代に中江兆民について研究し、演劇を通じて「対話」の持つ力を訴え続ける平田オリザ氏が、『三酔人経綸問答』の問答に込められた、現実主義的なリベラルの可能性や、分断が進む現代社会における「対話」の意義を解説する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おたま
51
NHKEテレ「100分de名著」の12月のテキスト。中江兆民については、かねてより関心をもっていた。明治の知識人の中でもスバ抜けて西洋の事情に詳しく、時代の先を見ていた人物であったように思う。今回は平田オリザ氏の解説ということもあり、演劇関係者として、この本での「対話」を重視していることが印象的。放送もまだ2回が終わったところだが、やはり三酔人(紳士君、豪傑君、南海先生)の「対話」に重点が置かれているように思った。それにしても中江兆民の先見性は鋭い。それを歴史の中に位置づけていくことも大切なことだろう。2023/12/14
ころこ
45
日本には(政治)哲学がないという問題と、言文一致による平叙文の書き辛さを解決したのが対話形式による問答だという。この3つを演劇のノウハウによって捉え返している。洋楽紳士が左派で、豪傑君が右派だというのは分かり易く古今変わらないが、現在その対立は激化している。どちらが正しいということではなく、このふたりが対話(ダイヤローグ)できる場所と言葉、そしてどっち付かずで分かり難い南海先生の存在が現代に必要だという。著者の言語に対する感覚は鋭い。単なる情報の入れ物としてだけではなく、言葉そのものの機能に着眼している。2023/12/07
ムーミン
28
「知」に触れたという感じです。2023/12/25
まると
26
かつて読んだ時は対話形式でわかりやすいなあというくらいの印象でしかなかったが、連続講義を聴いてその深い読解に教えられるところが多かった。日清・日露戦争を経て海外侵略へと突き進んでいく日本の姿を予見し警鐘を鳴らしている点だけでなく、自由民権運動にやんわりと対応する明治政府と、革新勢力が掲げる福祉・環境政策をしたたかに取り込んでいく昭和30年代の自民党を重ね合わせているところが実に鋭い。相手の主張を全否定することなく、対話を重ねることこそが最も大切なのだと説いている。今の政治に一番問いかけたいところでもある。2023/12/26
歩月るな
17
演劇に一切関わりのない森の木B人生を送ってきた人間である自分にとっても、なぜか演劇って特別で「教育」という視点をもって見ても、割と憧れみたいなものはいつでも持ってるんだな、と気づいた。まあ、役割を演じろって事になるしかないけど。「るろうに剣心」~「ゴールデンカムイ」辺りの「日本人を作ろう」的な時代の流れを、当時を生きていた人間の視点で改めて考える事なんて、そうそう無いんだよな。爵位なんてもらったらちぐはぐになる、って爵位絶対要らないマンを頑張ってた人ってかっこいい(海外小説にも爵位蹴りするやつがいるね)2024/02/28