出版社内容情報
私は宿命的に放浪者である――。
飢えに苦しみながらもあっけらかんとした明るさを失わず、絶望が心を塞いでも世の中に啖呵をきる。林芙美子の自伝的小説『放浪記』には、舞台化により広まったイメージとはまったく異なる魅力が詰まっている。激動の昭和初期を生き抜く女性の姿に、新たな光を当てて読み直す。
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本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アカショウビン
8
林芙美子がずっと気になっていた。たまたま桜島、尾道の記念碑などを随分昔に見たが、読むことはなかった。本書を読み、その理由の一端を自覚した。カフェーの女給を自殺に巻き込んだ人物(太宰)が書いた文学とカフェーの女給が書いた文学、という対比が素晴らしい。戦争協力についての筆者の考えには、全く共感した。「前線にいる兵士という庶民の姿」を伝えたかった。突然の死を迎えるが、葬儀委員長川端の挨拶がなかなかいい。2023/11/03
Iwata Kentaro
8
前半はめっちゃ面白かった。文章も舞台も未体験だけどとても興味深かったし、舞台の解釈も秀逸でした。定型に落ちてはいけないという主張から結局定型に落としてしまった後半はジレンマ。2023/07/16
どりーむとら 本を読むことでよりよく生きたい
8
放浪記を書いた林扶美子のことが分かりやすく書いてあった。その中で印象深かったのが、彼女が食レポの名人であったということである。私が好きな作品で、食事の場面の柿化が上手なのは「鬼平犯科帳)である、そこでも食事に関する蘊蓄が述べられているけれど、「放浪記」の中でも「熱いご飯の上に、伏兵戦にして、ムシャリと頬張ると、おこている事もまんざらではない」などの素晴らしい表現がある。それによって食べ物によって元気になっている様子が伝わってくる。この方面の表現は日常生活の中で私は使うことがなかったので使ってみたい。 2023/07/07
kaorin
6
とても面白い!100年も前の女性作家林芙美子の日常の本音が、柚木麻子さんの導によってグッと身近に引き寄せてくれた。 柚木さん目線で選ばれた芙美子の本音が書かれた引用箇所が、すごくいきいきとしていて、思わず笑ってしまう。まさかこんなに共感するとは思いもしなかった。 きっと、原作を先に読んでいたら読みづらさで、芙美子の魅力に気づく事なく挫折していたかもしれない。柚木さん、名ガイド! 柚木麻子著「らんたん」を読んで、河合道の事を身近に感じられた感覚が、この「100分で名著」でも再現されている。2023/09/03
die_Stimme
6
林芙美子の本を読んだことがなかったけど、この柚木さんによる解説を読んでとても興味を持った。性格が悪くても周囲のひとを惹き付ける人というのは確かにいると思う。結局のところ信頼できる人というのも林のように自分の悪辣さも弱さも見せてくれる人なのかもなーと思う。2023/07/08