出版社内容情報
モラルとビジネスの両立とは。いま世界が注目する「日本近代の立役者」の思想を読む。
2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公で、新一万円札の顔にもなる渋沢栄一の代表作『論語と算盤』。約500の会社の設立に関わるだけでなく、約600もの社会福祉事業にも精力を注いだ。行き過ぎた資本主義の弊害が問題視されるなか、『論語』の教えを重視し、倫理的で社会全体を富ませる経済のあり方を追求した渋沢の思想と人生を、中国古典の専門家である守屋淳氏が解説する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
98
明治時代、急速に普及した資本主義で日本の商業に欠けていた商業道徳は、一つには封建制度の影響がある。欧米からは利潤追求のあまり日本が信用されることはなかった。欧米では宗教を元にした倫理学があるが、渋沢は日本でそれを根付かせるために論語の思想を手本にした。守屋淳氏の解説によっても尚論語の解釈にやや我田引水の嫌いはあるが、資本主義の導入で生まれる弱者を救うための施設「養育院」を私費で経営した行動こそが渋沢栄一の思想を体現するものだった。今こそ求められる思想と態度。中国で多く読まれている書であることも理解できる。2021/04/28
ころこ
33
同じ著者のNHK新書『渋沢栄一「論語と算盤」の思想入門』がある。通常は放送が終わってからテキストを反映して出版されるが、その前に出版されたようだ。少なくとも放送の内容が反映されているのは本書で、上手く渋沢の生涯がまとめられている。論語=道徳、算盤=経済、公益と私利を両立させるという、実業家というよりはプラグマティズムの思想家という印象だ。渋沢が論語を読み替えたように本書は渋沢を少し読み替えて、時代が合本主義の渋沢を発見したと強調している。『プロ倫』との対比に触れられているが、そこまで期待するのは酷だろう。2023/07/03
Eric
23
道徳と経済の両立。道徳の適用範囲が個人→企業→社会と広がるなら、さらに社会→地球(環境)にも広げられるのだろうか。2021/04/14
しょうじ@創作「熾火」執筆中。
21
【一回目】守屋氏の解説がすばらしい。論語を蘇らせた渋沢、その渋沢を通してさらに21世紀に展開しようとしたのが守屋氏という印象をもった。西洋近代を突き動かしたのが、プロテスタントの職業倫理(ウェーバー)であり、それに遅れたものではあるが、明治期の産業人を動かすべきなのが「論語」であるのだろうか。ただし、その後の歴史の推移を見ると、論語の精神をインストールすることは、成功していなかったと考えざるを得ない。しかし渋沢によって再興された論語の精神は、今も時代を動かしうるのではないか。2021/04/12
nbhd
16
学ぶことの多い一冊で、渋沢さんの人間臭さを醸す次の表現が特に気に入った→「豊かさと地位とは『人類の性欲』だ」。「明治の性欲」に直面した渋沢さんの心中を思い入る。もひとつ。渋沢さんは「性欲」のバランスをとる道徳原理として論語を選択したけど、孔子についてキリストと比較してこう言っている→「孔子の方が信頼できる点として、奇蹟が一つもないところである」。これは深い。さて、「100分de名著」史として、前年2021年12月がブルデュー「ディスタンクシオン」、翌年1月「資本論」、で4月「論語と算盤」なのは注目に値する2024/08/16