出版社内容情報
フランス領マルティニークで生まれたファノンは、「黒人」でありながら、フランス留学やレジスタンス兵への志願を通じて「白人」に同化しようと試みるが差別は止まない。精神科医として人間の心理に内面化された差別の構造を凝視したファノンの思想を、仏語文学者で作家の小野正嗣氏が解説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
81
カリブ海フランス領マルティークに生まれフランス語の教育を受け、フランス軍として第2次世界大戦に従軍する。しかし最前線で戦うのは黒人だけ。そこで最初の違和感を覚える。リヨン大学医学部に入学し、フランス本国で暮らして今度は黒人だと差別される。むしろ黒人のアイデンティティーを誇りにすると、サルトルに対他的存在と指摘される。精神科医としてアルジェリアに赴き、独立戦争に巻き込まれ、白血病にて36歳で夭折する。最後に「おお私の身体よ、いつまでも私を問い続ける人間たらしめよ」とある。彼の生い立ちが彼を苦しめたのだろう。2021/02/24
1959のコールマン
73
☆5。正直に言うと、このテキストのレビューは書きにくかった。もちろん「答え(結論)」は出ている。「すべての人間の尊厳と自由を実現すること」p130。だが「答えはわかっている。それが実現できない事が問題」p130なのだ。さてどうする?と問い続けるのが原作とこのテキストの内容だろう。原作は非常に読みにくい。このテキストによると「黒い皮膚・白い仮面」がなぜ読みにくいかの理由を、口述筆記であること、ファノン自身がああでもないこうでもないと悩み苦しみながら、それでも問い続ける姿をそのまま写し出した本であること、↓2021/03/04
えみ
45
「黒人」への差別をテーマに、差別の構造が語られている『黒い皮膚・白い仮面』。著者は差別からの解放を訴え続けたフランツ・ファノン。このテキストにより、ほんの一部ではるけれど彼が成したかった世界を垣間見えた気がした。この作品は人種差別についてだが、差別は問題に取りあげられている・あげられていないに関わらず大小様々な差別が身近にいくらでも転がっている。それほど人は自分と違うものを受け入れることが難しいのだと思う。人種差別で言えば、平等意識で絵本「ちびくろさんぼ」がこの世のタブーになったと知ったときは衝撃だった。2024/01/14
フム
43
良かった!自らの体験に基づいた黒人差別の実態や人種差別の構造に対する怒りの言葉に共感で震える思いだった。「人間の尊厳と自由が問題になるときはいつでも、それは僕たちすべての問題…僕は断固として戦う」あらゆる差別と戦ってきた過去の人々も現代の社会のあらゆる場所に巣を食う差別を問題にし続けることも、それが人間性が問われることだと直感的に認識しているからなのだと思う。「差別を見過ごすことは、そこに加担することであって、自分の中の人間性を否定することになる」小野正嗣さんの言葉に納得。今夜放送最終回。楽しみだ。2021/02/22
ころこ
34
大澤真幸が『地に呪われたる者』を紹介していて、滅茶苦茶な運動原理の自己破壊的なひとという印象がありました。本書ではシャモワゾーとコンフィアンの『クレオールとは何か』に言及されていて、思いがけない繋がりから興味を持ちました。言語に代表される文化には、イデオロギーとそれに伴う差別が構造化されている。ヨーロッパ的な論理性を言語化することは、それがヨーロッパ的価値観を批判するものであれ、必然的に白人意識に囚われたものになる。我々は彼らの怒りを理解する可能性が高いといえますが、彼らを差別する可能性も高いといえます。2021/02/10