出版社内容情報
社会の矛盾をあぶりだす「あやつり人形」。原作に秘められた知られざる豊穣
「嘘をつく悪い子がよい子に生まれ変わる物語」というイメージがディズニー映画から定着している『ピノッキオの冒険』。ところが、ピノッキオは愛らしいどころか筋金入りの悪童だった! 単なる児童文学ではなく、大人もうならせる隠された奥深いテーマとは? 豊かなメタファーを含む原作の魅力に迫る!
児童文学の傑作『ピノッキオの冒険』にイタリア文学者、和田忠彦氏が新しい視点から光を当てる。「不条理に直面したときにどうすればよいか」「人は心の闇とどう向き合えばいいか」など、現代に通じるメッセージを読み解く。
【構成】
第一回 「統一国家」と「あやつり人形」
第二回 「嘘」と「死」が教えるもの
第三回 「労働」と「対価」
第四回 「遊び」と「冒険」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
93
映画「ほんとうのピノッキオ」は2019年イタリアで大ヒットした原作にほぼ忠実な映画。1881年雑誌に連載され、1883年単行本になった原作「ピノッキオの冒険」は、イタリア文学で最も多くの外国語に翻訳された。作者コッローディは当時トスカーナ大公国のフィレンツェ生まれ。1871年イタリア統一が成立するまで義勇兵として参加した。日本では明治維新の頃、ギャンブル依存症だった著者が借金を返すために書いた物語。ディズニー「ピノキオ」は1940年アメリカで公開。単純なハッピーエンドのお話しだったので原作が新鮮に感じる。2021/12/07
れみ
86
NHK-Eテレ「100分de名著」のテキスト。ディズニー映画の「ピノキオ」もよくは知らない(子どもの頃、絵本は読んだかも?)くらいな知識のなか、原作の「ピノッキオの冒険」はなかなか刺激的なお話で、そこが子どもには人気で、作者のコッローディの思いもよらないところでファシズムの流れにも乗ってしまった…というのが興味深い。大人が読んでも味わい深さや考えさせられる部分があるのも面白い。番組では「分かったぞ!(中略)ぼくは働くのに向いてない!」のところ、朗読の伊藤沙莉さんが上手過ぎてつい笑ってしまいそうになった…。2020/05/11
えみ
46
私の知っている『ピノキオ』とはだいぶストーリーが異なっていて驚くことばかりだった。なんて残酷で、なんて魅力的なピノッキオ。綺麗に纏められていない悪童っぷりが気持ちいい。100分de名著、『ピノッキオの冒険』の解説書。イタリアで生まれた原作で著者が世に出したかった本当のピノッキオに出会える。世界中の児童へ送られた物語。それがまさか、首括りで命を落とすことで完結とされていた事実、当時の時世を風刺して物語に組み込まれた皮肉。何度も裏切り嘘つき、決していい子ではない我儘気ままの男の子の心境変化を楽しむ。読みたい。2023/11/26
ころこ
34
本書がなければ読まずにいた典型例。今更ながら、この番組に感謝。著者も『薔薇の名前』の時の方ということで、軽重のバランスが取れていて清々しい。キャラクターを知っていて、この話を知らないのは「ピノキオ」としてディズニーに汚染されてきたからだという批判が著者の含意にある。他方で、本作はホラーに近いと思う。人形がホラーに使われることがあるが、それは人形が人間のある特徴を拡大して見せているからであろう。『クオーレ』にも触れられていて、蒙が拓かれる。2022/11/28
コニコ@共楽
26
5月の読書会に向けて、作品の背景にあるものを知りたくて手に取りました。著者のコッローディはイタリアの統一が進められた時代に生きた作家なんですね。出版当時はあまり人気がなかったのが、イタリアのファシズムの時代に非常に人気が出たということも知りました。このテキストの著者、和田氏は、その人気の一端がピノッキオの”新しさ、モダンさ”ではないか、と語っています。その辺りは、もう少し考えてみたい所です。この作品では、いろいろな人がイラストを描いているようで、それも見比べてみたいと思います。2022/05/06