内容説明
「無常」の認識を突き詰めたとき、世界はどのようなものとして立ち上がるのだろうか。仏教の基本教理であり出発点であるこの問いを、インドから日本にいたる大乗仏教の最先端で深め、完成させた思想家こそ道元である。難解でなる主著『正法眼蔵』を具体的に読み解きつつ、そこに描かれた世界観、善悪、因果を明解に示す。大乗仏教の展開や同時代人・親鸞との比較もふまえながら、彼のたどり着いた「さとり」の姿に迫る最良の道元思想入門。
目次
第1章 出発点としての「無常」
第2章 「さとり」と修行―『正法眼蔵』「現成公案」巻を読み解く
第3章 道元における「仏性」―『正法眼蔵』「仏性」巻を読み解く
第4章 道元の善悪観―『正法眼蔵』「諸悪莫作」巻を読み解く
第5章 道元の因果論
第6章 善悪の絶対性と仏教
著者等紹介
頼住光子[ヨリズミミツコ]
1961年、神奈川県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。山口大学講師、助教授を経て、お茶の水女子大学大学院教授。2013年東京大学人文社会系研究科倫理学科教授。専攻は日本倫理思想史
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感想・レビュー
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ねこさん
23
諸悪はすなわち莫作であり、一切の事象や行為、むしろ悪行が善となる、そんな曲解する邪見の門徒が道元と親鸞、双方の元に居たことにあらためて驚く。一切衆生悉有仏性、悪人正機のアプローチから趙州狗子の公案がなぜ無門関冒頭にあるのか気付かされる。身近なコミュニティの利得の為に他者を蹂躙し、それを善と曲解し、紆余曲折のプロセスを無駄と呼び、相互扶助の社会性を喪失する人の散見を見れば、想像に難くない。発心と悟り、修行によるその継続を前提としない諸悪莫作は危険だ。晩年、破門者を出した道元の苦悩も感じられて、思う所も多々。2022/04/02
ねこさん
14
再読。縁起ー無自性ー空の得心度が高まり、百丈野狐の公案に踏み込めた感あり。筆者の冥想の深さ、言語能力の高さが垣間見えて、読中の共感性に心地よさすらある。南直哉氏の『正法眼蔵を読む』と合わせて、書棚に置いておきたい一冊。2024/05/02
たびねこ
10
わかりやすい文章だが、「空」とは、単に「空」ではない。ぼんやり読んでいると、道に迷う。面倒だが、丁寧にメモをしながら読んだ。「正法眼蔵」を読み解くキーワード「縁起ー無自性ー空」、直線的ではなく同時に因果が起きる時間観念など、難解だが、繰り返し読み返すと、仏教思想の距離感、奥行き、輪郭がおぼろげながら見えてくる。2019/03/05
ラーメン小池
8
【図書館本】仏陀の教えと悟りを理解するには、原典に近い上座部仏教(小乗仏教)にアプローチするのが一般的である。しかし大乗仏教の極北といえる道元、そして道元と並び称される親鸞の教えの中に、悟りと真理を見出そうとする一冊。時間・主体などの概念をも含む道元の究極まで深い思想を、筆者はその卓越した分析と筆力で、鮮やかに読み解いて表現する。その一方、言葉による教義の伝達や真理表現等の限界を感じる。なぜ筆者は道元に惹かれたのか?→「もし、真理というものがあるとするならば、ここにはそれに接する言葉があるのではないか。」2015/08/02
パット長月
4
以前、著者が道元について書いた入門書が斬新で良かったので本書を購入したが、レベルが段違いであった。語彙などは丁寧に説明してあるものの、その重厚で緻密な論理展開は、アカデミックな論文集の感がある(巻末の参考文献リストがすごい)。そういうわけで内容の10分の1程度しか理解できなかったが、巷の眼蔵の解説書の多くが、道元の言に依って著者の思想を述べるにすぎず、原文の理解には無力であるが、本書は本物の読解書であり、その学問的なアプローチは納得のいくものである。眼蔵読解の導きの糸として、今後何度も読み返したいと思う。2012/04/21