内容説明
「日本という国の森に、大正末年、昭和元年ぐらいから敗戦まで、魔法使いが杖をポンとたたいたのではないでしょうか。その森全体を魔法の森にしてしまった。発想された政策、戦略、あるいは国内の締めつけ、これらは全部変な、いびつなものでした。魔法の森からノモンハンが現れ、中国侵略も現れ、太平洋戦争も現れた。」司馬遼太郎が、軍部官僚の「統帥権」という“正義の体系”が充満して、国家や社会をふりまわしていた、昭和という“魔法の森の時代”を、骨身に軋むような想いで「解剖」する。日本のあすをつくるために。
目次
何が魔法をかけたのか
“脱亜論”私の読みかた
帝国主義とソロバン勘定
近代国家と“圧搾空気”―教育勅語
明治政府のつらさ―軍人勅論
ひとり歩きすることば―軍隊用語
技術崇拝社会を曲げたもの
秀才信仰と骨董兵器
買い続けた西欧近代
青写真に落ちた影〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
57
「司馬氏は作家」と巻末に有る。が同じく有るように私も歴史家と作家の区別も解らぬまま、中学の頃より深く傾倒し、相当に史観的薫陶を受けた。その風貌が一因となったのも否めない。氏が逝去されたのは1996、平成8年。それから23年経て、氏のリルタイムを知らぬ人々も含め氏の史観を神話化・権威化している人々が存するも事実。この重い1冊は氏特有の言葉を「歴史を反芻しつつ」絞り出されているのが実感として生々しく読めた。昭和元年からに20年、日本全体が悪魔の森と化した謎を解きつつ敷衍して行く明治、江戸期との連関の分析が 2019/07/06
おさむ
54
絶対に昭和の小説は書かなかった司馬遼太郎。「書いたらおそらく1年を待たずして私はおかしくなりそうです」。ここまで言うのも、自らの従軍経験に依拠するところがあるのでしょう。そんな司馬さんが真意を語った30年前のNHK番組をまとめた本著。改めて読むと明治維新の明るい物語を沢山書いたのは、昭和の暗さから脱したかったからではないかと感じます。合理的な江戸の精神を全否定した明治政府への批判もしています。司馬史観が単なる明治礼賛ではないという事を再認識しました。2017/05/26
おさむ
53
昭和元年ー20年は日本が魔法にかけられた時代だったと説く司馬史観。日露戦争にまぐれで勝って勘違いが生まれ、悪い方向へ進んだとする説は今や定番ですね。リアリズムの欠如と精神の自己肥大化、成熟出来なかった近代日本を「がさつ」と一刀両断。てっきり徳川嫌いと思ってましたが、「江戸時代には合理主義があった」と評価もしています。話があちこちに飛ぶ「雑談ぶり」が難点(これぞ司馬節との見方もありますが)。2016/02/12
AICHAN
44
図書館本。NHKの取材時に司馬さんがひとり語りしたもの。昭和に近づくと日本は暴走し始め、日中戦争、そして太平洋戦争へと身を投じる。なぜそんな馬鹿なことをしたのか。なめらかなひとり語りで「昭和」の本質を突く。日本は素晴らしい歴史を持っているが、昭和元年から20年にかけては「鬼っ子」だったという。なぜそうなったか。日露戦争に勝利したはいいが、ポーツマス条約に不満を持った群衆が日比谷で大騒動を起こしたときから一気に「鬼っ子」の道へと方向転換したのではないかと指摘する。具体的には参謀本部が日本を「占領」したという2018/04/25
ロマンチッカーnao
32
あれは戦争ですらなかった。とアメリカとの戦争を書かれています。戦力、国力が戦争など行なえないほど開いているのに、戦争を始めてしまった。明治時代の自国を平明に分析する力をなくし合理的に判断する能力もなくしていた。統帥権と軍部への批判ではなく、司馬遼太郎史観による透徹な眼差しによる文章。しっかりと胸に刻みたい。2020/05/11