出版社内容情報
『吾輩は猫である』の「フワフワ」した猫,『明暗』のあわい…,作品が描いた境界を流れゆく生と,『文学論』の(F+f)や「個人主義」にみる哲学的探求.「微妙な関係」から始まり、次第に「親しい」ものとなっていくウィリアム・ジェイムズの思想を背景に,漱石の世界観ならびに人間観の展開を丹念にたどる.
目次
第1章 (F+f)とジェイムズ心理学をめぐる微妙な関係(『文学論』の動機;(F+f)と心理学
「F」と(F+f)の意義
『文字論』解読)
第2章 『文学論』における「文芸上の真」(「文芸上の真」の背景;漱石の「文芸上の真」;『宗教的経験の諸相』との共鳴;『宗教的経験の諸相』が示唆する「真の真実」)
第3章 「文芸の哲学的基礎」と「真に」存在するもの(漱石の「哲学的基礎」;「理想」の意義;「還元的感化」の仕組み)
第4章 「創作家の態度」と「ばらばら」な世界(「創作家の態度」の「極端」な世界観;「自己本位」の語り;「ばらばら」な人間と世界)
第5章 『多元的宇宙』と漱石晩年の思想(『多元的宇宙』と「融け合う」世界;『明暗』における『多元的宇宙』の残響;「則天去私」に暗示される思想)
著者等紹介
岩下弘史[イワシタヒロフミ]
1986年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了。博士(学術)。法政大学兼任講師ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buuupuuu
21
漱石はジェイムズから大きな影響を受けていたようで、それは文学論から根本的な思想にまで及んでいる。ジェイムズは、実在の根源を主客未分の流れだとし、そこから関心によって焦点化が起こり、多数の世界が成立するのだと考えた。漱石の言う「自己本位」とは、このように世界を確立していくことと解釈できる。他方でこのような世界の乱立はバラバラの個人を作り出すことになる。だが漱石は、純粋経験へと遡っていくことで他者との連絡が可能になるのではないかと考えたのだという。「則天去私」という言葉はこういうことを表すものだと解釈される。2024/08/22
masasamm
2
ウィリアム・ジェイムスは夏目漱石が影響を受けたアメリカの心理学者です。この本はウィリアム・ジェイムスの影響を受けた漱石の考え方を考察します。漱石の根本に何があったのか。それをさぐるための参考になる本です。2023/09/04