出版社内容情報
世界文学と日本近代文学との具体的な関係の緻密な分析を通して,世界文学論が掘り起こす問題系に応える.世界史・世界文化と密接な関係性をもつ世界文学からの,日本近代文学による摂取の複雑な過程が解きほぐされる.日本近代文学研究から発信される世界レベルの知の再編成.
目次
第1部 世界文学は理論のなかに産まれる(世界文学のエピジェネティクス;漱石の(反)世界文学と(反)翻訳
運動としてのモダニズム―ニカラグアから日本へ
『坊っちゃん』の世界史―ラファエロからゴーリキーまで)
第2部 世界文学の聞こえる場所(古謡と語り―漱石の翻訳詩から小説へ;猫との会話と文学の可能態―コレットの『牝猫』と谷崎の『猫と庄造と二人のをんな』について;フランツ・カフカの「変身」と宇野浩二「夢みる部屋」というモダニストの部屋;自分のアイデンティティへ―高橋たか子『空の果てまで』とモーリヤック『テレーズ・デケルウ』)
第3部 引き継がれる世界と生命(世界文学としての三つの生命―漱石、スタイン、ジェームズ;文学の生命線―『リリカル・バラッズ』から漱石へ;世界文学の文体チューニング―手紙の中のローザ・ルクセンブルク)
著者等紹介
野網摩利子[ノアミマリコ]
国文学研究資料館研究部准教授(総合研究大学院大学文化科学研究科准教授併任)。専門:日本近代文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かもめ通信
21
難しそうだと思いながらも読み始めた論文集。世界文学の中の漱石や谷崎、という視点が興味深い。とりわけ面白かったのはソフィア大学のダリン・テネフ氏の書かれたもの。「猫との会話と文学の可能態」なんて“文学ネコ”研究だもの!物言う猫と沈黙を守る猫、語る猫と無口な猫。19世紀初頭以来、文学作品の中で増加した話す猫。彼らの多くは雄でおしなべて大変聡明で雄弁!?いやー面白い、ここからはじまる一連の考察。紹介されている猫に片っ端から会いに行きたくなってきた。もしダリン・テネフ氏の単著が翻訳されたら絶対買ってしまうな。2020/06/23
K.H.
8
うーん、何だこれは。ダリン・テネフによる序論では、「世界文学」を「エピジェネティクス」のモデルを使って構築し直すという構想が打ち立てられており、これは面白そうだけど手強そうだ、と身構えて読んでいたのに、続く各著者の論文は、そんなもん知らんとばかりに我が道を往く(だからといって面白くないということはないのだが)。テネフの空回り感に呆気に取られているうちに読み終わってしまった。もっとも、どこにモデルが応用されているのかをわたしが読み取れなかっただけなのかもしれないけれど。いちばん面白かったのは末尾の谷川論文。2022/10/15