出版社内容情報
日本において国民番号制度が挫折を繰り返してきたのはなぜなのか.福祉国家の発展に伴う行政機能の拡大が生じた時期に着目して国際比較のなかでその理由を明らかにするとともに,マイナンバー制度が日本の福祉国家のゆくえに与える影響について考察する.
目次
序論
第1章 日本の戸籍制度と番号制度(住民管理の始動;住民管理行政の漸進的発展 ほか)
第2章 プライバシーの政治的利用(言説と実態;国民総背番号制の浮上と挫折 ほか)
第3章 情報化政策の逆説(行政組織と情報技術;コンピュータ産業政策をめぐる政治 ほか)
第4章 韓国における国民番号制度の成立(植民地時代の住民管理;住民管理の新たな展開 ほか)
第5章 多様な番号制度への道(福祉国家と番号制度;帝国主義の陰に生まれた国民番号制度)
結論
著者等紹介
羅芝賢[ナジヒョン]
1984年韓国大邱に生まれる。2008年高麗大学文学部東洋史学科卒業。2017年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在、東京大学公共政策大学院特任助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さとうしん
10
日本の国民総背番号制「失敗の本質」的な研究。諸外国の事例を参照しつつ、日本の場合は戸籍制度の存在とその強さが大きな壁となっていること、総背番号制を阻む大きな理由として挙げられがちな日本人のプライバシー意識の強さも、単なる反対のための方便にすぎないことなどを指摘している。各国の制度について歴史的な概略をまとめており、参照価値がある。本書の末尾の言を踏まえると、政府が真に福祉国家の質的向上をもたらすために番号制度を導入すれば、こうした構造的問題や国民の反対を乗り越えることができるということになりそうだが…2020/10/03
masabi
9
【概要】統一された番号制度を成立させる背景を解説する【感想】本書が指摘するのは、急激な行政実務の増加が統一的な番号制度を導入する契機となることだ。対して、日本では戸籍制度や各種保険など様々な番号が既に存在しており、それらを刷新統合できなかった。2021/06/27
林克也
3
そういうことか、と思いながら読んだが、さすがに博論、とても難しかった。マイナンバー制度は 日本の福祉国家の質を向上させるためのものではなく、福祉国家の縮小を目的とするものだということを市民に感づかれたことによって今の現状がある、ということは、自分の体感としてだけでなく、多くの人もそうなんだ、ということがわかった。そのうえで、「一つはっきりしたことかあるとすれば,それは、福祉国家の質的な向上をもたらさない形で番号制度の改革を進めても、その試みは,常に市民の抵抗に直面するだろう」の言葉には励まされた。2022/11/09
ヨシツネ
2
マイナンバーが福祉を削る為のメリットなし政策であること、新自由主義者と自民党から提出したことを思い返させる2020/01/26
Ra
0
区立図書館本③。国民総背番号制の導入失敗をプライバシーを重視する市民抵抗に帰する行政学の従来の通説に挑戦する意欲的な博論。統一的な国民番号制度を導入しえた国々の共通点を後発的福祉国家(行政活動の量的急増)である点に見出す。ただし,冷戦下の治安維持に起源が求められる国々(韓国・台湾,旧東側諸国等)と,欧米列強と異なりポストWWⅡに福祉国家化したスカンジナヴィア諸国とは相違。2022/01/22