出版社内容情報
民族は虚構に支えられた現象である、という視点にたち、民族の同一性という考えを生み出す社会的・心理的なしくみを分析。虚構と現実を結びつけているシステムを考察したうえで、開かれた共同体概念の構築を試みる。「民族」を考えるすべてのひとのためのテキスト。
内容説明
民族という虚構から開かれた共同体へ。異邦人や少数者の存在こそが人間の同一性を生み出す源泉をなす―パリ在住社会心理学者の考察。
目次
第1章 民族の虚構性
第2章 民族同一性のからくり
第3章 虚構と現実
第4章 物語としての記憶
第5章 共同体の絆
第6章 開かれた共同体概念を求めて
著者等紹介
小坂井敏晶[コザカイトシアキ]
1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部助教授
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感想・レビュー
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アナクマ
37
【文庫版を読了】民族同一性は虚構に支えられた現象であることを論証する。さらには主体自由平等正義責任犯罪罪罰時間過去歴史幸福愛信頼苦悩死老い‥すべて虚構だと。にもかかわらず、それらのことに根拠があると思えなければ人間の生活はありえない、との立場。話題の「サピエンス全史」では、虚構を支持する心象が人類を人類たらしめたとしている(らしい。未読)。あれもこれもどのみち虚構なんだろうが、そうとわかったうえで信じてみるのとそうでないのとではあれが違うな。風通しが。「全史」を読む前に2010年代のマイベスト文庫を再読。2017/11/28
イカ
4
第1章だけでも読んでみると人種という概念自体が虚構に過ぎないということと、虚構が実態であるかのように錯覚するようになった経緯がよく理解できる。人種とは「客観的な根拠を持つ自然集団ではなく、人工的に区分された統計的範疇にすぎない。どの身体的特徴(身長・体形・髪・血液型・皮膚色・眼色・頭形・鼻形・唇形・体毛の濃さなど)に注目するかによって(その)分類の仕方は異なってくる」。
水無月十六(ニール・フィレル)
4
民族というものは虚構である。人間の社会は虚構から成り立っている。目から鱗の話が多かったです。民族というものを考えるときにこの本で読んだことが役立つように思えます。ただ少し偏った見方なのかなというところもあったので、その箇所に関しては他の文献もあたる必要がある気がします。2014/10/21
Shori
2
久しぶりの小坂井先生本。ぼんやり多様性いいよね、で止まっていたなと思わされる。少数派影響理論、民族同一性が虚構であるがゆえの他の文化価値を受け入れられる…。イラク水滸伝にて、イラク都市部からは貧しい外部とみなされている、湿地民発祥の食文化(水牛のゲーマルなど)が国民食とされていることも想起した。異端があるから宗教が成り立つ。反権威があるから美術の権威が成り立つ(ブルーピリオドより)。2023/08/03
イカクジラ
2
5章が特に面白かった!そして自分のナイーブさに恥じ入る。虚構性が人間の条件なら、それを批判したって後々のフォローまで普通出来ないもの。大審問官はエラかった。今後は「日本人とは何か」的自分探し本は読まなくなるかも。2010/06/21