出版社内容情報
越前から帰京した小市は長年言い寄られた宣孝とついに結婚するが、夫の裏切りに心は冷えきり、三年にも満たぬうちに死別する。
心にあいた穴を埋められずにいるなか、清少納言や和泉式部の傑作に心打たれた小市は、『源氏物語』執筆を開始。たちまち高い評判を得ると、藤原道長の強い求めに応じて、中宮彰子に出仕する。
数世代にわたる帝をとりまく非情な権力抗争や、人々の無常を肌身に感じつつ物語に昇華させ、源氏物語を完結させた紫式部の生涯を描く。〈解説〉山本淳子
内容説明
三年に満たぬ結婚生活の末、夫と死別し、胸に穴があいてしまった小市は、清少納言、和泉式部らの文才・歌才に心うたれる。そして自らも生き身の証を求めて、恋愛譚であり政治小説の要素を濃くもった『源氏物語』の執筆に没頭していく。中宮彰子への出仕を経て、「宇治十帖」を書き終え、物語を完結させた三十代から晩年を描く。
著者等紹介
杉本苑子[スギモトソノコ]
大正14(1925)年、東京に生まれる。昭和24年、文化学院文科を卒業。27年より吉川英治に師事する。38年、『孤愁の岸』で第四十八回直木賞を受賞。53年『滝沢馬琴』で第十二回吉川英治文学賞、61年『穢土荘厳』で第二十五回女流文学賞を受賞。平成14年、菊池寛賞を受賞、文化勲章を受勲。29(2017)年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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がらくたどん
65
物語好きで内気な割に頑固者の少女が「紫式部になる」とはどういう事であったかが語られる下巻。葛藤の多い短い結婚生活・勢力図の変化による実家の浮き沈みや政治の理不尽を見聞きする体験の蓄積が、批判的に見ていた「枕草子」に託した清少納言の中宮定子への想いと文章が持つ無形の力に触れて「書いてみたい!わたしも」という衝動に繋がる場面が好きだ。娘彰子の後宮に知識人を迎えたいという道長の意図で子持ちの未亡人となっての宮仕えが、かえって昏い「宇治十帖」を書かせ絢爛な恋愛譚の裏に政治小説の要素が加味されたとの分析も面白い。2023/12/19
ゆずきゃらめる*平安時代とお花♪
18
ついに後編読み終わりました。史実でもよく知られている越前に同行したとこから三条天皇の時世まで書かれている。世に知られてる紫式部とはまた違って〈小市〉といいう感情表現と大胆さが面白い。たまに弟〈惟規〉の口がたっしゃな会話には傑作。彼女のまわりには色んな家族がいてそれが物語だったのかなもしれない・・。2024/01/26
coldsurgeon
6
源氏物語作者・紫式部の一代記後編。主人公小市が越前国司として赴任する父に同行するところから始まる。中央政府は、国司などの地方官が集めた貢税をただ吸い上げる機関に過ぎず、政治そのもは国衙の地方官たちの手でのみなされているという、その時に持ったのかもしれない。源氏物語を楽しみの書として書き始め、その後、道長の手により中宮彰子を飾る女房になるわけだが、権力闘争の宮廷を見続けるうちに、書く物語への想いは変化していった。自分のために、自分の気持ちを物語の中に込めていったのだ。紫式部のひとつの見方であろう。2024/01/26
BECHA☆
4
越前から戻って怒涛の人生を一気に。2024/04/06
yuukihideyasu
3
越前国府へ結婚、出産を経て源氏物語の執筆に没頭して逝去まで、波瀾万丈の人生を感じる。読者を惹きつける主人公を生み出して歴史と絡ませる技巧に関心のあるのみ。2024/05/23