出版社内容情報
昭和初期の金沢を舞台に旧制高校生・片口安吉の青春を描く「歌のわかれ」、敗戦直後、天皇をめぐる問題を問うた「五勺の酒」。表題作のほか「村の家」「萩のもんかきや」など、著者の代表的な中短篇九篇を収める。詩「歌」、自作をめぐるエッセイを併録。文庫オリジナル。
内容説明
金沢を舞台に旧制四高生・片口安吉の青春の光と影を描く「歌のわかれ」、敗戦直後、天皇感情を問うた「五勺の酒」。この二篇のほか、「村の家」「萩のもんかきや」など著者の代表的な短篇七篇を収める。詩篇「歌」、自作をめぐる随筆を併録。文庫オリジナル。巻末エッセイ・石井桃子・安岡章太郎・北杜夫・野坂昭如。
著者等紹介
中野重治[ナカノシゲハル]
1902(明治35)年、福井県生まれ。小説家、評論家、詩人。第四高等学校を経て東京帝国大学独文科卒業。在学中に堀辰雄、窪川鶴次郎らと詩誌『驢馬』を創刊。日本プロレタリア芸術連盟やナップに参加。31年日本共産党に入党するが、のちに転向。小説「村の家」「歌のわかれ」「空想家とシナリオ」を発表。戦後、新日本文学会を結成。45年に再入党し、47年から50年、参議院議員として活動。64年に党の方針と対立して除名された。79(昭和54)年没。『むらぎも』(毎日出版文化賞)、『梨の花』(読売文学賞)、『甲乙丙丁』(野間文芸賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐島楓
67
「歌のわかれ」「村の家」は講談社文芸文庫で読了。したはずなのだが、「村の家」の主人公の老父の思いにぐっときた。息子は東京で思想活動の末投獄され、故郷に戻ってくる。老父はそれまでの苦労を訥々と息子に語り聞かせる。苦しい毎日のうえで何とかやりくりをしてしのぎ、家を守ってきた父親と、それでも文筆活動を続けたいと願う息子。このふたりの断絶と乖離がたまらなくつらい。理想だけでものを食べていけるわけではない。お互い苦しかっただろう。今回はお父さんのほうに感情移入して読んだ。転向を扱った文学として白眉。2022/01/12
kentaro mori
2
収録作は『大江健三郎柄谷行人全対話』をふまえているとしか思えなく、ありがたい。今となっては、プロレタリア文学との距離を感じざるを得ないが、『村の家』、『五勺の酒』は傑作。大江が影響を受け続けたというのも納得。プロレタリアでありながら、その立場の曖昧さ、この宙吊り状態。●「わたしらは侮辱のなかに生きています。」(春さきの風)●つまりあそこには家庭がない。家族もない。どこまで行っても政治的表現としてほかそれがないのだ。ほんとうに気の毒だ。羞恥を失ったものとしてしか行動できぬこと、これが彼らの最大のかなしみだ。2022/11/26
ぼっせぃー
2
「春さきの風」「村の家」「広重」「米配給所は残るか」「五勺の酒」「萩のもんかきや」。天皇制や共産主義なる大義と言われるものに酔えた時代、それを懐かしむ様子にはクドさを感じる。しかし、転向の予兆を秘めた「歌のわかれ」から「村の家」「米配給所は残るか」を経て「五勺の酒」「萩のもんかきや」へ至る軌跡が示す、人間がようやく分かった、というようなヤレ・スレ方には魅力を感じた。「村の家」でアホタレインテリ息子にせめてバカは止めろと70年を恥じることなく生きてきた父親が仔細な金勘定を持ち出してまで叱り飛ばす下りがよい。2022/01/20
うさぎ
1
「自分全部を与えることが許されぬとわかった僕は五分の四の自分を与えようとした。それが許されぬとわかったときは二分の一を与えようとした。それが駄目とわかったときは三分の一、つぎは四分の一、つぎは五分の一を与えようとした。最後には何分の一でなくただ僕自身の僕による何かを与えようとした」(『五勺の酒』)2023/03/01
紅林 健志
0
「歌のわかれ」は金沢で大学生活送った身としては共感しながら読めた部分はある。他は、背景がややピンとこなかった。2022/04/09