出版社内容情報
軽妙な語り口で市井の人びとの日常をユーモラスに描いた梅崎春生。直木賞を受賞した表題作ほか、「黒い花」「零子」など同賞の候補となった全四篇と、自作について綴った随筆を併せて収める。文庫オリジナル作品集。
〈巻末エッセイ〉野呂邦暢〈解説〉荻原魚雷
■目次
Ⅰ
黒い花/拐帯者/零子/猫と蟻と犬/ボロ家の春秋
Ⅱ
私の小説作法/私の創作体験/わが小説/私の小説作法
〈巻末エッセイ〉名前(野呂邦暢)〈解説〉荻原魚雷
内容説明
軽妙な語り口で市井の人びとの日常をユーモラスに描いた梅崎春生。1955年に直木賞を受賞した表題作ほか、「黒い花」「零子」(全集未収録)など同賞の候補作全四篇と、小説をめぐる随筆を併せて収める。文庫オリジナル作品集。
著者等紹介
梅崎春生[ウメザキハルオ]
1915(大正4)年福岡市生まれ。小説家。東京帝国大学国文科卒業前年の39(昭和14)年に処女作「風宴」を発表。42年立軍に召集されて対馬重砲隊に赴くが病気のため即日帰郷。44年には海軍に召集される。戦争体験をもとに人間心理を追求し戦後派作家の代表的存在となる。『ボロ家の春秋』で直木賞、『砂時計』で新潮社文学賞、『狂い凧』で芸術選奨文部大臣賞、『幻化』で毎日出版文化賞。1965(昭和40)年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アナーキー靴下
82
猫アンソロジーでも読んだ、三たびの「猫と蟻と犬」収録の短篇集。第一印象は悪かったのに『怠惰の美徳』に妙味を感じ好きになってしまった梅崎春生。本書は印象が大きく異なる作品が収められており新鮮だった。「黒い花」「零子」は大切なものを奪われたと感じる女性が愛されることを執拗に求め続けてしまう、そうした心情がリアルに伝わってくる作品。「ボロ家の春秋」は本の紹介通りユーモラスな作品。どちらにも通じるのは、人間の心理を非常に良く理解している、という点。だからこそ、胸に迫る作品も、思わず笑っちゃう作品もあるんだな。2022/04/07
斎藤元彦は絶対ヅラじゃない・疑似兵庫県民の寺
58
こないだ出た文庫。編者の荻原魚雷曰く、『ボロ家の春秋』は21~2年ごとに文庫化されているそうだが、この表題作は青空文庫にあるので是非読んでみて欲しい。面白くてズルズル読んでしまう。今回復刊したのは、何かしら仕組まれているような気がする。というのも、先日、ちくま文庫から野呂邦暢の『愛についてのデッサン』が出て話題になっているが、野呂邦暢というペンネームは、『ボロ家』の登場人物から拝借したそうで、本書は野呂邦暢のエッセイ入りである。おまけに中公文庫は今月中に丸山豊の散文集を出すのだ。丸山豊というと、(続く)2021/07/02
ゆきらぱ
31
文体が重い「黒い花」「零子」が好み。「ボロ家の春秋」は最初おしゃべりを聞いている気分で読んでいたが次第に愚痴っぽくなりなかなか読み進めずでした。2021/08/11
かもすぱ
8
梅崎春生3冊目。直木賞候補作と受賞作、それと小説作法の随筆の短編集。『怠惰の美徳』からこの作者を知り、気の抜けた作風として認識していたので、初期の張り詰めた緊張感のある作品には驚いたが、これはこれでかなり好きな作品だった。特に『零子』。表題作『ボロ屋の春秋』は持たざる者同士で協調すべきはずがいがみ合って、知らないところで第三者が利益を掻っ攫っていくユーモラスな中の悲哀があった。2023/10/22
博多のマコちん
6
野呂邦暢の巻末エッセイが付いているという帯の宣伝文句に惹かれて購入。中・高校生のころ家にあった新潮社の赤いケースの日本文学全集にもこの作家は有ったと思うけれど多分初読み。読みやすい文体で書かれた5編とも、落ち着いて読むことが出来たが「感想」となると何とも言い表しにくい。昔から馴染んできた小説らしい小説、というところ。解説では、初期と中期以降で作風が変わったと書いてあり、表題作は別々の文庫で21~22年おきに刊行されているとのこと。なるほど所々可笑しくて笑ってしまう不思議な味わいの作品でした。2021/08/27